高温の現場で働く人にとって、「足元の安全」は命に関わるほど重要なポイントです。
特に、溶接や鋳造、製鉄所や厨房など、熱源に近い作業では、一般的な安全靴では対応できないこともあります。
そんな環境で頼りになるのが“耐熱性の高い安全靴”。この記事では、耐熱性能の基礎から、素材・構造・ブランド別の特徴、選び方までをわかりやすく解説していきます。
耐熱安全靴とは？高温現場で必要とされる理由
高温環境での作業では、靴底が熱せられたり、火花やスパッタ（金属の飛び散り）が足元に当たることがあります。
通常の安全靴だと、底が溶けたり変形したり、内部温度が上昇して火傷する危険も。
耐熱安全靴はそうしたリスクから足を守るために、特殊なゴム底や難燃素材を使用して作られています。
具体的には、300℃の熱盤に1分間接触しても変形や溶解しないなど、厳しい試験に耐えるよう設計されています。
高炉前、鋳造現場、溶接、金属加工、食品工場の高温エリアなど、熱に晒されるあらゆる作業で役立つ靴です。
耐熱性能の基準とJIS規格
「耐熱」と一言で言っても、どの程度まで耐えられるのかは靴によって異なります。
その目安になるのが、JIS（日本工業規格）で定められた性能区分です。
代表的な基準は次の通りです。
- 高温熱伝導性（HI区分）
150℃の鉄板上に靴底を置き、中底温度が22℃上がるまでの時間を計測。
HI1＝20分以上、HI2＝30分以上と区分されます。 - 耐高熱接触性（H区分）
300℃の銅板に1分接触しても靴底が溶けたり亀裂が入らないこと。 - 耐燃料油性・耐滑性・耐踏抜き性
熱だけでなく、油や滑りにも強い構造であることが求められます。
つまり、「HI2」「H」などの表示があるモデルは、高温作業向けとして信頼できる性能を持っているといえます。
耐熱安全靴の構造と素材の特徴
靴底（ソール）
耐熱靴のソールは、熱伝導を抑えるために**耐熱ゴム（ラバーソール）**が使われます。
通常のEVAやポリウレタン底では熱変形を起こしやすいですが、ラバー素材なら300℃近い接触にも耐えられます。
さらに、熱が内部に伝わりにくいように中底・インソールを多層構造にして断熱性を高めています。
高温床面でも足裏の温度上昇を防ぎ、快適に作業できるのがポイントです。
甲被（アッパー）
外側の素材は「牛革ベロア」や「難燃合皮」など、火花やスパッタが付着しても焦げにくい素材が中心です。
特に溶接や鍛造では火花の飛散が多いため、革製のベロア素材が好まれます。
この素材は柔らかく、耐久性も高いので、長時間の作業でも足が疲れにくいという利点があります。
先芯・補強
耐熱靴でも先芯（トウキャップ）は必須。
鋼製や樹脂製などがありますが、熱伝導を避けたい場合は樹脂製を選ぶ人も多いです。
また、踏み抜き防止プレートや滑り止めパターンなど、熱以外の安全機能も併せて確認しておきましょう。
高温現場で失敗しない選び方のポイント
1. 現場の温度を把握する
床面温度が150℃を超える環境なのか、300℃以上の金属片が飛び交うのかによって、必要な性能は大きく違います。
「高炉前」「溶接専用」など用途が明記されているモデルを選ぶと間違いが少ないです。
2. 耐熱区分と素材をチェック
JIS区分のHI1、HI2、Hなどの表示を確認し、熱源の温度に合った靴を選びます。
靴底が“耐熱ゴム底”であること、甲革が“牛革ベロア”または“難燃合皮”であることも目安になります。
3. 快適性と重さのバランス
耐熱構造の靴はどうしても重くなりがちです。
移動が多い現場では、軽量モデルやBOAダイヤル式など脱ぎ履きしやすいタイプを選ぶのもおすすめです。
4. 耐滑・耐油性も確認
高温現場では油や粉塵も多いため、滑り止めパターンや耐油底の有無も重要。
熱以外のリスクにも対応できるかチェックしましょう。
5. メンテナンスと交換タイミング
靴底が硬化したり、焦げやひび割れが見えたら早めの交換を。
熱による劣化は見た目以上に早く進むので、定期的な点検が安全を守ります。
人気ブランド別に見るおすすめ耐熱安全靴
ここからは、耐熱性能で定評のある代表的なブランドとモデルを紹介します。
現場の用途別に選びやすいよう、特徴を整理しました。
ミドリ安全 V173K
老舗メーカー・ミドリ安全の熱場専用モデル。
熱に強いゴム底とベロア皮を採用し、高炉・溶解作業・鋳造現場に最適です。
火花の付着に強く、底の断熱構造で長時間の立ち作業にも対応。
信頼性と耐久性を重視するならまず検討したい一足です。
ノサックス WD-700
JIS認定の革製S種安全靴。
溶接作業向けに設計され、300℃接触試験にも耐える高耐熱性能が特徴です。
甲革には厚手の牛革を採用し、火花やスラグの付着にも強い仕様。
現場でのリピート率が高い実力派モデルです。
ドンケル T-2
軽量性と耐熱性を両立したモデル。
高温床面での作業はもちろん、倉庫や設備点検など「熱＋歩行」が多い現場に向いています。
価格も比較的手ごろで、初めての耐熱靴として選びやすいタイプです。
エンゼル B520 長マジック
長めの丈でスパッタや火花の侵入を防ぐ、溶接専用モデル。
牛革ベロアを使用し、マジックテープで脱ぎ履きも簡単。
脚全体を保護したい人や、激しい火花が飛ぶ環境での作業に適しています。
サンダンス TT-014
軽作業向けのローカット耐熱モデル。
難燃合皮仕様で、厨房や整備工場など中温域の作業におすすめ。
軽くて動きやすく、コストパフォーマンスも高いのが魅力です。
現場別おすすめの使い分け
耐熱安全靴といっても、すべての現場で同じ性能が必要なわけではありません。
用途に合わせて、以下のように選ぶと失敗しません。
- 高炉・鋳造・溶解作業：ミドリ安全 V173K、ノサックス WD-700などの高耐熱革製モデル。
- 溶接・金属加工・機械整備：エンゼル B520やドンケル T-2。
- 厨房・メンテナンス・軽作業：サンダンス TT-014のような軽量耐熱タイプ。
作業環境の温度と作業内容を基準に、靴底の性能と甲革素材のバランスで選びましょう。
耐熱安全靴の注意点と長持ちさせるコツ
いくら耐熱性能が高くても、過信は禁物です。
想定温度を超える環境や、油・金属粉塵の多い場所では、ソールの劣化が早まることがあります。
使用後はしっかり汚れを落とし、日陰で乾燥させましょう。
革製の場合は専用クリームで保湿し、ひび割れを防ぐのが長持ちの秘訣です。
また、焦げや剥離が見られたら早めに交換。安全靴は「消耗品」と割り切ることも重要です。
まとめ｜耐熱性の高い安全靴で足元の安心を守る
耐熱性の高い安全靴は、熱・火花・スパッタなどから足を守る“最後の防具”です。
JIS規格の性能区分や素材構造を理解し、自分の現場環境に合った靴を選ぶことが何より大切。
ミドリ安全 V173Kやノサックス WD-700のような専門メーカー製は信頼性が高く、長時間の高温作業でも安心感があります。
一方で、ドンケル T-2やサンダンス TT-014のような軽量タイプも、日常的な作業には十分役立ちます。
高温現場での安全は、靴選びから始まります。
足元の熱対策を万全にして、今日も快適で安全な作業を。
