安全靴の「甲プロテクタ」って聞いたことありますか?
つま先を守る先芯は有名ですが、実は足の甲を守るための仕組みも存在します。現場で重い物を扱う人にとって、足の甲を守ることは“命を守る”ことにも直結します。この記事では、甲プロテクタの役割や構造、規格、そしておすすめの安全靴まで徹底的に解説します。
甲プロテクタの役割とは?つま先だけでは守れない部分をカバー
安全靴の先芯は、つま先の保護を目的としています。
しかし、実際の現場では「足の甲」を直撃する事故が少なくありません。落下した工具、転がる荷物、フォークリフトの接触など、甲の上から受ける衝撃は思った以上に大きいものです。
そこで登場するのが「甲プロテクタ」。
これは、足の甲に取り付けられた硬質の保護プレートで、落下物や衝撃を吸収し、足の骨や筋を守る仕組みです。
安全靴本体に一体化しているタイプもあれば、あとから装着できる「後付け型」もあります。
たとえばミドリ安全のモデルでは、甲プロテクタが衝撃を受けた際に変形してエネルギーを吸収し、足へのダメージを最小限に抑える設計が採用されています。
これにより、従来の「先芯+靴甲被」構造ではカバーしきれなかった範囲まで安全を広げられるのです。
なぜ甲部の保護が重要なのか?
つま先を守ることが当たり前になった現在、見落とされがちなのが甲部のリスクです。
たとえば、建設現場での鉄骨作業、倉庫での荷役作業、重量物の運搬などでは、足の甲を直接打つ危険が常にあります。
こうした場面では、甲プロテクタの有無でケガの深刻度がまったく変わります。
つま先だけを守る安全靴は「部分防護」ですが、甲プロテクタ付きの安全靴は「広域防護」。
つまり、足全体を守る発想です。
特にフォークリフトのタイヤや台車の角が甲を押しつぶすような事故は、甲プロテクタの有無で致命傷を避けられるかどうかが分かれ目になります。
甲プロテクタの構造と素材
甲プロテクタにはさまざまなタイプがありますが、基本的な構造は「衝撃を受けて変形し、エネルギーを吸収する」仕組みです。
主に使われる素材は以下の通りです。
- アルミニウム製:軽量で高い剛性を持つ。代表例はシモンの「甲プロS-2」など。
- 強化プラスチック/樹脂製:軽さと柔軟性を両立。
- 複合素材:カーボンやガラス繊維を混ぜ、耐衝撃性と屈曲性を確保。
内部構造は、硬質プレートとクッション層を組み合わせ、衝撃を受けた際に変形しながら力を分散します。
これにより、甲骨に直接衝撃が伝わらず、痛みや骨折を防ぐことが可能になります。
取り付けタイプの違い:一体型と後付け型
甲プロテクタの安全靴には、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 一体型タイプ
製造段階で靴本体に組み込まれたタイプ。JIS規格で「M(足甲プロテクタ)」マークが付くものがこれに当たります。
靴全体のバランスが取れており、耐衝撃性・固定力が高く、プロの現場でも採用されています。
デメリットは、重量がやや増す点です。 - 後付け型タイプ
既存の安全靴にあとから取り付けられる着脱式タイプ。必要なときだけ甲を守れるため、柔軟に運用可能です。
代表例は、アルミ製でベルト固定式の「甲プロS-2」。
靴の種類を選ばず取り付けられるため、コストを抑えながら安全性を高めたい現場に向いています。
甲プロテクタに関する規格と性能試験
安全靴の規格には、JIS T8101(一般作業用)およびJIS T8103(静電安全靴)があります。
この中で「足甲の保護性」は付加的性能のひとつとして“M”で示され、以下の基準が設けられています。
- 20kgの鋼製ストライカを100Jの衝撃で落下
- 衝撃後の甲部の残存空間(すきま)が25mm以上あること
つまり、「Mマーク付き安全靴=甲プロテクタ試験をクリアした安全靴」。
このマークがあるかどうかで、製品の信頼性が判断できます。
また、JSAA認定のプロスニーカーでも「足甲保護性」項目が定義されており、作業内容に応じた安全基準が整備されています。
おすすめの甲プロテクタ付き安全靴・プロテクタ製品
ミドリ安全「ラバーテックRT920甲プロ」
耐油・耐滑・耐久性に優れた短靴タイプ。甲プロテクタ付きで、落下物の衝撃を吸収する設計。
重量物を扱う建設・製造・鉄鋼業におすすめです。
ミドリ安全「PRM212甲プロM2」
静電防止+足甲保護を兼ね備えた高機能モデル。JIS T8103 CI/S/P1/F2/M対応。
安全性と快適性を両立した代表的なモデルです。
シモン「甲プロS-2」
アルミ合金製の後付け甲プロテクタ。
靴の上から簡単に装着でき、甲部をしっかり保護。軽量で繰り返し使用可能です。
アズワン/AXEL取扱 甲プロテクタシリーズ
工業用・研究用資材サイトで取り扱われる後付けプロテクタ群。
多様なサイズ・素材・固定方式があり、現場環境に応じた選択ができます。
甲プロテクタ付きモデルを選ぶ際のチェックポイント
- Mマーク表示の有無
JIS認定を確認し、「M」付きかどうかをチェック。 - 作業内容とのマッチング
重量物・落下物のある現場では必須。軽作業では後付け型でも十分。 - 素材と重さ
アルミ製は頑丈だが重め。樹脂や複合材は軽量で動きやすい。 - 履き心地とフィット感
甲高や幅広の人は、プロテクタによる締め付けを感じやすいので要注意。 - メンテナンス性
後付けタイプは脱着や交換が容易。一体型は耐久性が高いが買い替えコストが上がる。
現場別に見る甲プロテクタの活用シーン
- 建設・土木現場
鉄骨や資材の落下リスクが高く、甲プロテクタはほぼ必須。 - 製造・金属加工ライン
金属片や工具の落下、機械との接触を防ぐために有効。 - 物流・倉庫作業
フォークリフトや台車との接触事故防止に活躍。 - 巡回・歩行の多い職種
軽量な後付け型を必要時のみ使用する方法もおすすめ。
導入時の注意点とデメリット
甲プロテクタは非常に有効な保護手段ですが、万能ではありません。
注意すべき点も押さえておきましょう。
- 重量が増す:特に一体型は足の疲労が増える場合があります。
- 屈曲性が低下:甲が硬くなるため、階段やしゃがみ動作に影響することも。
- サイズ感の違和感:甲高の人は窮屈になりやすいので、試し履きが大切。
- コストアップ:通常モデルよりやや高価になりますが、安全投資として価値は十分。
- 後付け型のズレ・脱落:固定ベルトやバンドの点検を怠らないこと。
これらを理解したうえで、自分の現場環境や作業内容に最適なタイプを選ぶのがポイントです。
まとめ:安全靴の甲プロテクタで足を守る一歩を
安全靴の甲プロテクタは、つま先保護だけではカバーできない「甲部の危険」を減らすための心強い機能です。
規格上でも“M”マークとして正式に定義され、衝撃試験をクリアした製品だけがその称号を持ちます。
建設や物流、製造など、重量物を扱う現場では導入効果が大きく、後付けタイプなら既存靴にも対応可能です。
「足の甲なんて守らなくても」と思う人ほど、一度痛い思いをすると後悔します。
ケガをしてからでは遅い――。
安全靴の甲プロテクタは、現場で働く人の未来を守る“もうひとつの盾”なのです。


