せっかくお気に入りの一足を見つけて、山登りの相棒にしたトレッキングシューズ。「一回登っただけだし、まだ綺麗かな」なんて、玄関にそのまま放置していませんか?
実は、トレッキングシューズは私たちが思っている以上に過酷な環境にさらされています。泥、砂、雨、そして足から出る大量の汗。これらを放置することは、お気に入りの靴の寿命を自ら縮めているのと同じことなんです。
「でも、どうやって手入れすればいいのか分からない」「ゴアテックスって洗っても大丈夫なの?」と不安に思う方も多いはず。
そこで今回は、初心者の方でも今日から実践できるトレッキングシューズの手入れの基本から、長持ちさせるための保管の裏技まで、徹底的に解説していきます。
なぜ登山後のメンテナンスが「命」なのか
トレッキングシューズの手入れは、単に見た目を綺麗にするためだけではありません。登山靴には、一般的なスニーカーとは比較にならないほどの高度な技術が詰まっています。
まず知っておきたいのが「加水分解」という現象です。多くの登山靴のクッション部分(ミッドソール)にはポリウレタンが使われています。この素材は、水分と反応してボロボロに崩れてしまう性質を持っているんです。
「久しぶりに履こうとしたら、山道で靴底がペロンと剥がれた」という悲劇を聞いたことはありませんか?その原因の多くは、汚れや湿気を放置したことによる加水分解です。
また、ゴアテックスなどの防水透湿素材も、表面の泥が詰まると「内側の蒸れを逃がす」という本来の機能を失ってしまいます。つまり、適切に洗わないと、高機能な靴がただの蒸れる靴になってしまうわけです。
愛着のある一足を5年、10年と履き続けるためには、下山直後からのアクションが運命を分けます。
下山した瞬間から手入れは始まっている
本格的な手入れは家に帰ってからで構いませんが、山を降りた直後にやっておくべき「3つのステップ」があります。
- 大きな泥を落とす多くの登山口には、ブラシと水道が備え付けられた洗い場があります。そこでソールの溝に詰まった泥や小石をしっかり落としましょう。乾いて固まってしまうと、後で落とすのが倍以上の手間になります。
- 靴紐を緩める下山後は足も靴も疲れています。靴紐をしっかり緩め、タン(ベロ)の部分を前に引き出して、靴の内部に風を通すようにしましょう。
- 車内での放置に注意車で帰宅する場合、濡れた靴をビニール袋に入れて高温の車内に放置するのは厳禁です。蒸れと熱は、接着剤の剥離や素材の劣化を加速させる「最悪の環境」です。
ステップ別:失敗しないトレッキングシューズの洗い方
さて、無事に帰宅したら本格的な洗浄に入りましょう。準備するものは、専用ブラシ(なければ使い古しの歯ブラシ)、登山靴用クリーナー、そしてぬるま湯です。
1. パーツをバラバラにする
まず、靴紐とインソール(中敷き)を外します。これ、意外と面倒で飛ばしがちなのですが、絶対に外してください。紐を通す穴の周りや、インソールの下には驚くほど砂や埃が溜まっています。
外した紐とインソールは、中性洗剤を溶かしたぬるま湯で押し洗いしましょう。汚れがひどい場合は、洗濯ネットに入れて洗濯機へ入れても大丈夫です。
2. ブラッシングで「乾いた汚れ」を撃退
いきなり水をかけるのはNGです。まずは乾いた状態で全体をブラッシングし、表面に付いた砂や埃を払い落とします。水を含んでしまうと、砂が奥まで入り込んでしまうからです。
3. ぬるま湯とクリーナーで優しく洗う
表面の汚れが落ちたら、ぬるま湯をかけながらクリーナーで洗っていきます。コロニルやニクワックスといった専用のクリーナーを使うのがベストですが、なければ台所用の中性洗剤でも代用可能です。
ただし、柔軟剤入りの洗剤は絶対に避けてください。柔軟剤の成分がゴアテックスの微細な穴を塞いでしまい、透湿機能が死んでしまいます。
4. 内部も洗っていいの?
「内側は洗わない方がいい」という説もありますが、実は洗った方がいいんです。足の裏からは大量の塩分を含んだ汗が出ています。この塩分が結晶化すると、防水膜を傷つける原因になります。
内側を洗うときは、洗剤を使わずぬるま湯で軽く流す程度で十分です。最後にしっかりとすすぎ、洗剤成分が残らないようにしましょう。
乾燥工程こそが「最重要」と言われる理由
洗うこと以上に大切なのが「乾燥」です。ここで失敗すると、カビが生えたり、形が歪んだりしてしまいます。
日陰で、風を通す
一番のタブーは「直射日光」です。「太陽に当てた方が菌が死にそう」と思うかもしれませんが、強い紫外線はゴムや合成繊維を一気に劣化させます。必ず風通しの良い日陰で乾かしてください。
新聞紙の力を見直そう
早く乾かすための最強の味方は、新聞紙やキッチンペーパーです。丸めて靴の中に詰め込み、湿気を吸わせます。
ポイントは、最初の数時間は30分〜1時間おきにこまめに交換すること。一度湿った紙を入れっぱなしにすると、逆に湿気がこもる原因になります。ある程度水分が抜けたら、あとは型崩れしない程度に紙を詰め、じっくり2〜3日かけて陰干ししましょう。
ドライヤーは厳禁?
「明日も使うから」とドライヤーの熱風を当てるのは絶対にやめてください。ソールを固定している接着剤が熱で溶け出し、剥がれの原因になります。どうしても急ぎたい場合は、扇風機の風を当てるのが正解です。
仕上げの撥水処理で「新品の弾き」を取り戻す
靴が完全に乾いたら、仕上げに防水スプレー(撥水スプレー)をかけましょう。
実は、トレッキングシューズの「防水性」と「撥水性」は別物です。防水は内側のメンブレンが担っていますが、表面の生地が水を吸ってしまうと、重くなるだけでなく、透湿性が損なわれて内側が蒸れてしまいます。
スプレーのコツ
- 屋外で使用する:吸い込むと危険ですので、必ず換気の良い外で行ってください。
- 20cmほど離す:一箇所に集中せず、全体に霧をまとうように均一にスプレーします。
- 二度塗りが効果的:一度軽くかけて乾かし、もう一度重ねることで撥水層が強固になります。
ヌバックやスエードといった天然皮革モデルの場合は、このタイミングで専用の保革オイルやワックスを塗り込みます。グランジャーズなどの製品を使って、革に栄養を与えてあげましょう。
寿命を延ばす!プロが教える保管のテクニック
せっかく綺麗に洗っても、保管場所が悪いと台無しです。次の山行まで靴を最高の状態に保つためのポイントをまとめました。
箱に入れてはいけない
意外かもしれませんが、購入時の靴箱に入れて保管するのはおすすめしません。箱の中は空気が停滞しやすく、湿気がこもって加水分解を促進させてしまうからです。
理想は「風通しの良い高い場所」
湿気は低い場所に溜まる性質があります。下駄箱の最下段よりも、なるべく中段から上段、あるいは風通しの良い部屋の棚などに置くのが理想です。
もし長期間履かない場合は、除湿剤を近くに置くか、時々外に出して陰干ししてあげてください。
劣化のサインを見逃さない
手入れのついでに、以下のポイントをチェックする習慣をつけましょう。
- ソールの溝: 減りすぎていないか(張り替えの検討)。
- サイドの剥がれ: ソールとアッパーの間に隙間ができていないか。
- 靴紐の毛羽立ち: 切れそうな箇所はないか。
これらを事前に確認しておくことで、山行中のトラブルを未然に防ぐことができます。
まとめ:トレッキングシューズの手入れ完全ガイド!長持ちさせる洗い方と保管のコツを解説
トレッキングシューズは、厳しい自然からあなたの足を守ってくれる「相棒」です。
面倒に感じることもあるかもしれませんが、山から帰った後の30分の手入れが、結果として数万円する靴を何年も長く持たせることにつながります。そして何より、丁寧にメンテナンスされた靴で山に登るのは、最高に気持ちがいいものです。
今回ご紹介した手順を、ぜひ次回の登山後のルーティンに取り入れてみてください。
- 下山直後の泥落とし
- 分解してぬるま湯で洗浄
- 日陰で徹底的に乾燥
- 撥水スプレーで保護
- 風通しの良い場所で保管
このサイクルを守るだけで、あなたのトレッキングシューズは見違えるほど長持ちし、次の冒険でもあなたを力強く支えてくれるはずです。
さて、靴が綺麗になったら、次はどこの山を目指しましょうか?万全の状態のシューズと共に、素晴らしい景色を楽しみに出かけましょう。


