「週末、ちょっとした低山ハイクに誘われたけれど、専用の登山靴を持っていない。手持ちのランニングシューズで代用しても大丈夫かな?」
そんな疑問を抱いたことはありませんか?あるいは、運動不足解消のために「ウォーキングもジョギングも、たまのハイキングも1足でこなせる万能な靴が欲しい」と考えている方も多いはず。
実は、トレッキングシューズとランニングシューズは、見た目は似ていても、その設計思想や構造はまったくの別物です。何も知らずに兼用してしまうと、足のトラブルを招くだけでなく、山道で思わぬ怪我を負ってしまうリスクもあります。
今回は、トレッキングシューズとランニングシューズの決定的な違いから、どうしても兼用したい場合に選ぶべき「第3の選択肢」まで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
トレッキングシューズとランニングシューズの決定的な違い
まず結論からお伝えすると、トレッキングシューズは「重い荷物を背負って不整地を安定して歩くための道具」であり、ランニングシューズは「平坦な道を効率よく、かつ衝撃を吸収しながら走るための道具」です。
具体的にどこが違うのか、ポイントを絞って見ていきましょう。
ソールの硬さと形状が正反対
一番の違いは「靴底(ソール)」です。ランニングシューズのソールは、地面を蹴り出す力をサポートするために非常に柔らかく、屈曲性に優れています。一方でトレッキングシューズのソールは、岩の角や木の根を踏んでも足裏が痛くならないよう、あえて硬く作られています。
グリップ(溝)の深さと目的
ランニングシューズの裏面は、アスファルトなどの舗装路に密着して滑らないよう、接地面積が広くなっています。対してトレッキングシューズの裏面は、泥道や砂利道でもしっかり地面を掴めるよう、深い溝(ラグ)が刻まれています。
足首のホールド力と重量
トレッキングシューズは、重いバックパックを背負った際に足首がぐらつかないよう、ハイカットやミドルカットなど足首を覆う形状が一般的です。素材も丈夫で厚いため、どうしても重くなります。ランニングシューズは、1秒でも速く走るために、とにかく軽量化が最優先されています。
山でランニングシューズを履くことのリスクとは?
「高低差の少ない初心者向けの山なら、ランニングシューズでも十分では?」と思うかもしれません。しかし、山道には街中にはない罠が潜んでいます。
滑りやすさが転倒・滑落につながる
街中では最強のグリップ力を発揮するランニングシューズも、濡れた岩場や湿った落ち葉の上では驚くほど滑ります。特に下り坂では、ブレーキが効かずにそのまま転倒し、大きな怪我につながる恐れがあります。
足裏へのダメージが蓄積する
ランニングシューズの柔らかいソールは、山道のデコボコをダイレクトに足裏へ伝えてしまいます。尖った石を踏み続けると、次第に足の裏が痛くなり、歩くこと自体が苦痛になってしまうのです。
靴そのものがすぐに壊れてしまう
ランニングシューズのアッパー素材(表面のメッシュなど)は、通気性を重視しているため非常に繊細です。鋭い岩や枝に引っ掛けると、一瞬で破れてしまうことも珍しくありません。
街でトレッキングシューズを履いて走るデメリット
逆に、頑丈なトレッキングシューズでジョギングをすれば足が鍛えられるのでは、と考える方もいるかもしれません。しかし、これもおすすめできません。
膝や腰への衝撃が強い
硬いソールを持つトレッキングシューズでアスファルトの上を走ると、着地の衝撃がクッションで吸収されず、そのまま膝や腰に響きます。これを繰り返すと、関節を痛める原因になります。
靴底があっという間に削れる
トレッキングシューズのゴムは、山道でグリップを効かせるための特殊な素材です。摩擦の強いアスファルトの上で使用し続けると、消しゴムのようにみるみるうちにソールが削れてしまい、肝心の山で使い物にならなくなってしまいます。
両方のいいとこ取りができる「トレイルランニングシューズ」
「歩くのも走るのも、1足で済ませたい」というワガママな願いを叶えてくれるのが、トレイルランニングシューズというカテゴリーです。
これは文字通り、山道を走る(トレイルランニング)ために開発された靴で、両者のメリットをハイブリッドに兼ね備えています。
トレランシューズが万能な理由
- 軽量なのにタフ: ランニングシューズに近い軽さがありながら、つま先や側面が補強されており、岩場でも安心です。
- 適度なソールの硬さ: 岩の突き上げを防ぐプレートが内蔵されているモデルが多く、不整地でも足裏が守られます。
- 強力なグリップ力: 登山靴に匹敵する深い溝があり、悪路でもしっかり踏ん張れます。
初心者の1足目にもおすすめ
最近では「ファストハイキング」といって、軽装でスピーディに山を歩くスタイルが流行っています。重厚な登山靴に抵抗がある方は、まずはこのトレランシューズから選んでみるのも賢い選択です。特にサロモンやホカといったブランドのモデルは、クッション性も高く、街履きとしても違和感のないデザインが揃っています。
失敗しないための選び方のポイント
自分に合った1足を見つけるためには、カタログスペックだけでなく「自分の足」との相性を確認することが不可欠です。
必ず午後にフィッティングを
足は夕方になるとむくんで大きくなります。登山やランニングでも同様のことが起きるため、フィッティングは午後に行うのが鉄則です。
登山用の靴下を履いて合わせる
登山を想定しているなら、普段の薄い靴下ではなく、厚手の登山用靴下を履いた状態で試着しましょう。サイズ選びの目安は、つま先に1cm程度の余裕がある状態です。
防水性の有無を検討する
山をメインにするならゴアテックスなどの防水透湿素材が便利ですが、夏のランニングがメインなら通気性重視のメッシュモデルの方が蒸れずに快適です。
人気ブランドの代表的なモデルをチェック
ここで、多くのユーザーから支持されている定番のモデルをいくつかご紹介します。
安定感抜群の「メレル モアブ」
メレル モアブは、トレッキングシューズの定番中の定番です。スニーカーのような履き心地でありながら、高い防水性とグリップ力を持ち、キャンプから低山ハイクまで幅広く対応します。
クッション性重視なら「ホカ スピードゴート」
膝への負担を極限まで減らしたいならホカ スピードゴートがおすすめ。厚底のソールが衝撃を魔法のように吸収してくれるので、長距離を歩いても疲れにくいのが特徴です。
万能型の「サロモン XA PRO」
サロモン XA PROは、ハイキング、ランニング、そして日常使いまでこなせるマルチな1足。クイックレースシステムで靴紐を結ぶ手間がなく、フィット感も抜群です。
シーンに合わせた使い分けが上達と安全の近道
結局のところ、どちらを選ぶべきかは「あなたがどこを歩く(走る)時間が一番長いか」で決まります。
- 本格的な登山を目指すなら: 足首をしっかり守るトレッキングシューズ。
- 街中のジョギングがメインなら: 衝撃吸収に優れたランニングシューズ。
- 山も街もアクティブに楽しみたいなら: 汎用性の高いトレイルランニングシューズ。
自分のスタイルがまだ定まっていないのであれば、まずはアシックスのランニングシューズで近所を歩くことから始め、少しずつ未舗装路に興味が出てきたら、トレランシューズを検討するというステップアップが、お財布にも足にも優しい方法かもしれません。
道具は、あなたの冒険を支えるパートナーです。それぞれの特性を理解して選んだ1足なら、外に出るのがもっと楽しくなるはずですよ。
トレッキングシューズとランニングシューズの違いを知って安全に楽しもう
ここまで、両者の構造の違いから使い分けのポイント、そして兼用に最適なモデルについて解説してきました。
おさらいすると、トレッキングシューズは「保護と安定」、ランニングシューズは「推進力とクッション」に特化した靴です。それぞれの得意分野を無視して無理な使い方をすると、怪我のリスクが高まるだけでなく、大切な靴の寿命を縮めてしまいます。
自分がどんな場所で、どんな動きをしたいのか。まずはそれをじっくり考えてみてください。
もし、どうしても迷ってしまうなら、まずはショップでニューバランスなどのフィット感に定評のあるモデルをいくつか履き比べてみることをおすすめします。自分の足にぴったり合う感覚を一度知ってしまえば、靴選びはぐっと楽になります。
トレッキングシューズとランニングシューズの違いを正しく理解して、あなたのライフスタイルに最適な1足を見つけ出してください。安全で快適な足元が整えば、新しい景色との出会いがあなたを待っています。


