「いつかは手に入れたい憧れの靴」として、世界中のファッショニスタや靴好きから愛され続けているブランド、それがイギリスの老舗トリッカーズです。
カチッとしたスーツに合わせるドレスシューズとは一線を画す、無骨でいて気品溢れる佇まい。厚手のデニムや軍パン、あるいはツイードのジャケットに合わせたくなるその独特のボリューム感は、他のどのブランドにも真似できない唯一無二の存在感を放っています。
しかし、いざ買おうと思うと「サイズ選びが難しい」「履き始めが痛いと聞くけれど大丈夫?」といった不安もつきものですよね。この記事では、190年以上の歴史を持つトリッカーズの革靴について、その人気の秘密から失敗しない選び方、そして長く付き合うためのコツまで、徹底的に掘り下げていきます。
190年超の歴史が紡ぐ、英国王室御用達の信頼
トリッカーズ(Tricker’s)は、1829年にイギリスの靴作りの聖地、ノーザンプトンで産声を上げました。現存するノーザンプトンのシューメーカーとしては最古の歴史を誇ります。
このブランドを語る上で欠かせないのが、英国王室との深い繋がりです。チャールズ国王(当時は皇太子)からロイヤルワラント(王室御用達)を授かっており、その品質は折り紙付き。単に高級であるだけでなく、もともとは広大な領地を歩き回るカントリーサイドの貴族や、ハンティングを楽しむ人々のために作られた「実用靴」としてのルーツを持っています。
だからこそ、トリッカーズの靴は驚くほど頑丈です。雨を弾き、泥道を歩いてもびくともしない。そんな実用性と、王室に認められたエレガンスが同居している点こそが、多くの人を惹きつけてやまない理由なのです。
代表モデル「カントリーブーツ」と「バートン」の違い
トリッカーズを検討する際、まず迷うのが「ブーツにするか、短靴にするか」ではないでしょうか。
まず一つ目の代表格が、カントリーブーツのストウ(STOW)やモールトン(MALTON)です。足首までしっかりとホールドする7アイレットの仕様で、サイドに施された美しいメダリオン(穴飾り)が特徴。ボリュームのあるシルエットは、冬場のコートスタイルやボリュームのあるパンツに負けない力強さを持っています。
もう一つの人気モデルが、短靴タイプのバートン(BOURTON)です。こちらはローカットのダービーシューズで、カントリーブーツのディテールはそのままに、より軽快に履きこなせるのが魅力。実はこのバートン、後述するサイズ選びにおいて非常に重要な「木型」の個性が際立っているモデルでもあります。
どちらも「ダブルソール」と呼ばれる厚い靴底を採用しており、一歩踏み出すたびに地面を力強く踏みしめる感覚を味わえます。
憧れの「一生モノ」を支えるベンチメイドの矜持
トリッカーズの靴がなぜこれほどまでに長く履けるのか。その秘密は「ベンチメイド」と呼ばれる製法にあります。
これは一人の職人が、靴の完成までの全工程を一貫して受け持つ伝統的なスタイルのことです。分業制が当たり前となった現代において、この製法を貫くことは並大抵のことではありません。職人のこだわりが細部まで宿った靴は、大量生産品にはない「魂」のようなものを感じさせます。
また、トリッカーズは「グッドイヤーウェルト製法」を採用しています。これはアッパー(甲革)とソールを直接縫い付けず、ウェルトというパーツを介して接合する手法。このおかげで、靴底が擦り減っても何度も交換(オールソール)が可能です。
適切なメンテナンスを施せば、20年、30年と履き続けることができる。まさに「人生を共に歩むパートナー」と呼ぶにふさわしい革靴なのです。
サイズ選びの注意点!「木型(ラスト)」の個性を知る
トリッカーズを購入する際、最も慎重になるべきがサイズ選びです。イギリスブランドなのでサイズ表記は「UKサイズ」ですが、モデルによって使用されている木型(ラスト)が異なるため、一筋縄ではいきません。
特に注意が必要なのが、短靴のバートンです。このモデルに使われている「4444」というラストは、幅が広く、甲も高めに設定されています。そのため、他のブランドのUKサイズと同じ感覚で選ぶと、「大きすぎて踵が浮いてしまう」という失敗が非常に多いのです。
一方で、ブーツのストウなどに使われる「4497S」ラストは、比較的標準的なフィッティングと言われています。
また、トリッカーズのカントリーシリーズは、もともと「厚手のウールソックスを履くこと」を想定して設計されています。薄いドレスソックスで合わせるのか、厚手の靴下でカジュアルに履くのか。自分の主な用途をイメージしながらサイズを決定することが、失敗を防ぐ最大のポイントです。
「修行」を乗り越えた先にある最高のフィット感
トリッカーズの口コミを調べていると、「履き始めがとにかく硬い」「修行のようだ」という言葉をよく目にしませんか?
これは決して大げさな表現ではありません。分厚いレザーと二重のソール、そして頑丈なグッドイヤーウェルト製法。新品の状態では、まるで鉄板の上を歩いているかのような硬さを感じることがあります。履き口が足首に当たって痛い思いをすることもあるかもしれません。
しかし、ここからがトリッカーズの真骨頂です。履き込むうちに、中底に敷き詰められたコルクが自分の足の形に合わせて沈み込んでいきます。そして、あんなに頑固だったレザーが、自分の歩き方の癖に合わせてしなやかに曲がるようになっていくのです。
この「自分だけの足型に育っていく過程」こそが、愛好家たちが愛してやまないポイント。苦労して馴染ませた一足は、スニーカーでは決して味わえない、吸い付くような最高の履き心地を提供してくれます。
エイジングを楽しむ!カラー選びのヒント
トリッカーズの醍醐味といえば、時と共に変化する「エイジング」です。どの色を選ぶかによって、数年後の表情が大きく変わります。
一番人気のカラーは、明るい茶系の「エイコーン(ACORN)」でしょう。どんぐり色という意味のこの色は、新品時はかなり明るく華やかですが、履き込むほどに色が深まり、アンティークのような風合いへと変化していきます。
落ち着いた印象を好むなら、赤みのあるブラウンの「マロン(MARRON)」や、王道の「ブラック(BLACK)」もおすすめです。特にブラックは、カントリーシューズの無骨さとドレスシューズのような品の良さが同居しており、モードな着こなしにも驚くほどマッチします。
どの色を選んだとしても、シューツリーを入れて形を整え、定期的に栄養を補給してあげることで、革は美しく、そして強く育っていきます。
メンテナンスで愛着を深める、一生モノの育て方
高い買い物をしたからこそ、長く大切に履きたいものですよね。トリッカーズのケアは、基本を押さえれば決して難しくありません。
まず、最も大切なのは「履いたら休ませる」こと。一日履いた靴は足の汗を吸っています。連続して履くと革が傷みやすくなるため、最低でも中二日は空けるのが理想です。脱いだ後はすぐに馬毛ブラシでホコリを落とし、湿気を逃がしましょう。
月に一度くらいは、専用の靴クリームで水分と油分を補給してあげてください。トリッカーズの革は非常にタフですが、乾燥するとひび割れの原因になります。
また、ソールが減ってきたら早めに修理店へ相談しましょう。ダイナイトソールのようなラバーソールであれば、雨の日でも滑りにくく耐久性も高いですが、それでもカカトは削れていくものです。適切なタイミングで修理を繰り返すことで、一足の靴と10年、20年という長い歳月を共に過ごすことができます。
まとめ:革靴 トリッカーズを一生の相棒にするために
トリッカーズの靴は、決して安い買い物ではありません。しかし、その一足を手に入れることは、単に靴を買う以上の価値を私たちの生活にもたらしてくれます。
伝統に裏打ちされた確かな品質、履くほどに自分の足に馴染んでいく感覚、そして年月を経て深みを増していくレザーの輝き。それは、効率や速さが重視される現代において、一つのものをじっくりと慈しみ、育てていくという贅沢な時間を教えてくれるものです。
最初は少し硬くて手強いかもしれません。サイズ選びに頭を悩ませるかもしれません。しかし、それを乗り越えた先には、あなたの歩みを支え、人生の節目節目を共に彩ってくれる最強の相棒が待っています。
自分だけの一足を見つけ出し、手入れを楽しみ、そして共に時を刻んでいく。そんな素晴らしい「靴との対話」を、ぜひトリッカーズの革靴で始めてみてください。


