近年、アシックスの業績が大きく伸びていることをご存じでしょうか。ランニングシューズのイメージが強いアシックスですが、実はここ数年で売上高・利益ともに過去最高を更新し、グローバルブランドとして新たなステージに突入しています。この記事では、アシックスの売上推移から、その好調の理由、そして今後の成長戦略までをわかりやすく解説します。
アシックスの売上推移:V字回復から過去最高へ
アシックスの連結売上高は、コロナ禍で落ち込んだ2020年を底に急速に回復しました。
- 2020年:3,287億円(前年比 -13%)
- 2021年:4,040億円(+22.9%)
- 2022年:4,846億円(+19.9%)
- 2023年:5,704億円(+17.7%)
- 2024年:6,785億円(+18.9%)
営業利益も2024年には1,001億円を突破し、前年比約1.8倍という驚異的な伸びを示しました。アシックスは2020年に赤字へ転落しましたが、その後わずか数年で過去最高益を達成しています。まさに“V字回復”という表現がふさわしい成長です。
この背景には、海外市場での急拡大とブランド戦略の再構築があります。
業績好調の理由①:海外市場での成長が牽引
現在、アシックスの売上の約8割以上が海外市場から生まれています。北米、欧州、中華圏を中心に、グローバルでの販売網を強化した結果、地域ごとにバランスの取れた成長が進んでいます。
特に中国・アジア地域では、健康志向の高まりやランニングブームの再燃により、アシックス製品の人気が上昇。日本発のブランドとしての信頼性や高品質な製品づくりが評価され、現地でのブランドロイヤリティが急速に高まっています。
さらに、為替の影響を除いても実質的な増収が続いており、海外事業がアシックス全体の収益構造を支える大黒柱となっています。
業績好調の理由②:高付加価値戦略とDTCの拡大
アシックスの利益率が急上昇したもう一つの要因が、「高付加価値製品」と「直販チャネル(DTC)」へのシフトです。
以前は卸売が中心でしたが、現在はECや直営店を通じた販売が増加。中間マージンを削減し、顧客と直接つながるビジネスモデルへと転換しました。これにより、販売データをもとに需要を即座に把握し、商品開発やマーケティングに反映できるようになったのです。
また、ランニングシューズだけでなく、ファッション性を重視した「スポーツスタイル」ラインや、「オニツカタイガー」などのブランドも好調。単価が高く利益率の高いカテゴリーの比率が上がり、粗利益率は55%を超えるまでに改善しました。
業績好調の理由③:スポーツ×ライフスタイルの融合
アシックスはこれまで「競技用シューズ」のイメージが強いブランドでした。しかし近年は、“日常でも履けるアスレジャー”をキーワードに、ライフスタイル領域への展開を強化しています。
特に若年層や女性層を中心に、機能性とデザイン性を両立したスニーカーの人気が急上昇。ランニングシーンだけでなく、通勤・タウンユースでも愛用されるようになりました。
さらに、ファッション業界とのコラボレーションや限定モデルの投入など、ブランド価値を高める戦略も奏功。SNSを中心にアシックスのスニーカーを紹介する投稿が増え、ブランド全体のイメージ刷新にもつながっています。
業績好調の理由④:研究開発の強化と「日本品質」の信頼
アシックスは世界展開を進めながらも、研究開発の中心は依然として日本に置いています。神戸の「スポーツ工学研究所」を中心に、素材・形状・衝撃吸収技術などを科学的に分析し、製品開発に活かしています。
こうした科学的アプローチは、アシックスのブランドアイデンティティの一部でもあります。海外展開の中でも「日本発の確かな品質」として評価され、プレミアムなブランドポジションを確立しているのです。
成長戦略①:DTCとデジタルの融合で顧客体験を進化
アシックスは今後も「デジタル×リアル」の融合によって顧客接点を広げる方針を掲げています。
オンラインストアやアプリを通じた購買データの活用、AIを用いたパーソナライズ提案、フィットネスデータとの連携など、顧客一人ひとりに合わせた体験を強化。単なる物販企業ではなく、「スポーツを通じたライフスタイル・パートナー」へと進化しようとしています。
この戦略により、リピーター率やブランドロイヤリティの向上が期待されています。
成長戦略②:環境・社会への取り組みを強化
近年、アシックスはサステナビリティ経営にも力を入れています。
環境負荷の少ない素材の採用、リサイクル技術の導入、サプライチェーン全体でのCO₂削減などを推進。さらに「2030年までにスコープ1・2でCO₂排出を63%削減」という目標を掲げています。
これらの取り組みは、欧州や北米などサステナビリティ意識の高い市場で評価が高く、ブランド価値の向上に直結しています。
成長戦略③:ブランドポートフォリオの拡充
アシックスは現在、複数のブランドラインを展開しています。
- ASICS Performance:ランニングやトレーニングなど競技向けのコアライン
- ASICS SportStyle:日常・ファッション向けライン
- Onitsuka Tiger:ファッション性を重視した独立ブランド
- アパレル・アクセサリー部門:シューズ以外の領域を拡大
このように多層的なブランド構造を形成することで、アスリートから一般消費者まで幅広い層をカバー。単一市場への依存を避けながら、世界的なブランドポートフォリオを築いています。
成長戦略④:中長期的な成長見通しと課題
アシックスは2025年12月期の通期営業利益予想を1,400億円に上方修正しており、過去最高の更新が続く見通しです。中長期的には、売上1兆円規模のグローバルブランドを目指す構想も示されています。
ただし、課題も存在します。為替変動や世界的な競争激化、原材料コストの上昇など、外部環境の影響を受けやすい構造です。また、ファッショントレンドの変化も速く、ブランド力を維持するためには継続的な革新が求められます。
それでも、アシックスが持つ技術力・品質・グローバルネットワークを考えれば、持続的成長への基盤は確立していると言えるでしょう。
まとめ:アシックスの売上と未来への期待
アシックスの売上推移を振り返ると、コロナ禍以降の復活劇は日本企業の中でも際立っています。海外市場での躍進、直販ビジネスの拡大、そしてファッションとの融合が成功し、今や“ランニングメーカー”を超えた存在へと進化しています。
これからのアシックスは、スポーツの枠を越え、健康・環境・ライフスタイルの領域でも新しい価値を生み出すブランドとしてさらなる成長が期待されます。品質へのこだわりと挑戦を続ける姿勢が、今後のグローバル市場でも強みとなるでしょう。
アシックスの売上の勢いは、単なる数字の成長ではなく、「日本発のブランドが世界で再評価されている」象徴でもあります。次の一手に注目が集まります。


