スポーツブランドとして世界中で愛されるアシックス。そのトップに立つ会長がどんな人物なのか、どんな経営方針で会社を導いているのか、気になる方も多いでしょう。今回は、現在のアシックス代表取締役会長CEOである廣田康人（ひろた・やすひと）氏に焦点を当て、経歴やリーダーシップ、そしてブランド成長を支える戦略までをわかりやすく解説します。
廣田康人会長とは？経歴と人物像
アシックスの会長を務める廣田康人氏は、1956年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業後、1980年に三菱商事に入社しました。長年にわたり商社でのグローバルビジネス、広報、総務、経営管理など多岐にわたる経験を積み、2018年にアシックスへ顧問として参画。その後、代表取締役社長COO、CEOを経て、2024年1月より代表取締役会長CEOとして会社の舵を握っています。
商社出身という異色の経歴ながら、論理的かつ現場目線を重視するリーダーシップが評価されており、アシックスの再成長を支える原動力となっています。趣味はランニング。自らもランナーとしてアシックス製品を愛用するなど、社員から「走る経営者」として親しまれています。
経営危機からの再建を主導した“Cプロジェクト”
廣田氏がアシックスに参画した2018年前後、同社は厳しい経営状況にありました。国内市場の成熟化、海外での競合激化により利益率が低下し、一時は赤字転落するなど、かつての勢いを失っていた時期です。
そこで彼が主導したのが「Cプロジェクト」と呼ばれる社内改革。これは競技用シューズを中心に「勝つための靴」を再定義し、アシックス本来の強みである機能性・品質・信頼性を徹底的に磨き直す取り組みでした。単なる製品改良にとどまらず、開発から販売までを一体化した体制を構築。コストを抑えながら品質を上げることで、高い利益率を実現しました。
このプロジェクトがきっかけとなり、アシックスは再び世界のトップアスリートから選ばれるブランドへと返り咲いたのです。
「量より質」への転換——高付加価値戦略の推進
廣田会長が強く打ち出しているのは「高付加価値モデルを定価で販売する」という方針です。安易な値下げでシェアを取りに行くのではなく、「価値で勝つブランド」を目指しています。
この考え方はアシックスのブランド哲学そのものにも通じます。靴づくりの根底にあるのは「人の体と心の健全な発達を支える」という理念。単なるスポーツ用品ではなく、ユーザーのライフスタイルや健康、ウェルビーイングに寄り添う製品づくりを重視しています。
特に競技用モデルの成功は、ブランド全体の信頼性向上につながりました。「一度履いたら他の靴は履けない」と言われるほどの履き心地と機能性が、ランナーを中心に評価を集めています。
製販一体の組織改革とグローバル展開
廣田氏の経営方針の大きな柱の一つが「製販一体化」です。以前は開発・製造・販売がそれぞれ独立していたため、市場ニーズへの対応が遅れることが課題でした。これを改善し、各部門が連携して市場データを共有し、開発スピードを高める仕組みを整えたのです。
さらに、グローバル市場でも「現地密着型のブランド戦略」を推進。アメリカやヨーロッパではランニングカルチャーに合わせたプロモーションを展開し、アジア市場ではライフスタイルライン（Onitsuka Tigerなど）を強化しています。こうした地域戦略の明確化が、海外売上の拡大につながっています。
会長CEO体制の狙いとガバナンス強化
2024年から始まった「会長CEO制」は、経営のスピードと透明性を両立させるための体制です。廣田氏が全体戦略を統括し、社長COOの富永満之氏が執行面を担うことで、役割を明確に分けています。
また、社外取締役の比率を高めることでガバナンス体制も強化。外部の視点を取り入れ、経営判断の透明性を確保する仕組みを構築しました。これは単なる形式的な改革ではなく、「世界水準の経営体制」へ進化するための基盤といえます。
廣田氏は商社時代に培ったグローバル経営やガバナンスの知見を活かし、アシックスを「モノづくり企業」から「ブランド経営企業」へと転換させつつあります。
ブランドの多面展開と次なる挑戦
現在のアシックスは、競技シューズだけにとどまらず、ファッション・ライフスタイル・サステナビリティといった幅広い領域でブランド価値を広げています。
代表的なのが、Onitsuka Tigerの再評価。ストリートやモードの文脈でも注目を集め、世界各地のファッションウィークにも出展するなど、ブランドの多面性を象徴する存在になっています。
さらに、アシックスは環境への配慮も重視。製造工程でのCO₂削減やリサイクル素材の活用など、持続可能なモノづくりに取り組んでいます。「スポーツで地球を健康にする」という視点は、企業理念と社会的使命を融合させた新しい方向性です。
社会への貢献と「走る会長」の哲学
廣田会長が重視するもう一つの軸が、スポーツの社会的価値です。青少年の健全な成長や、地域スポーツの振興など、アシックスは社会貢献活動にも積極的です。
また、廣田氏自身がランナーであることも象徴的です。自身の体験を通じて「走ることが心と体を整える」という理念を発信し、社員にも「走って考える」文化を根付かせています。経営の現場でも、単なる数字の追求ではなく「人を中心に考える経営」を貫いており、この姿勢がアシックスのブランドイメージをより温かく、人間的なものにしています。
数字で見るブランドの成長
廣田体制のもと、アシックスの業績は大きく改善しています。2025年上半期の営業利益率は約20％という高水準を記録。時価総額も右肩上がりで、株式市場での評価も上昇しています。
この成長は、単なる販売数の増加ではなく「ブランドの質」で勝負する戦略の結果です。特に、機能性ランニングシューズの世界的ヒットが利益率の押し上げに寄与しました。
これからのアシックスと廣田会長の展望
今後のアシックスが直面する課題は、グローバル市場での競争、サステナビリティ、デジタル化対応など多岐にわたります。廣田会長はそれらを踏まえ、「スポーツを通じて人々を幸せにする」という創業理念を次の時代にふさわしい形でアップデートしようとしています。
具体的には、AIを活用したシューズ開発や、オンライン販売の最適化など、デジタルとリアルを融合したブランド体験の強化を進めています。また、スポーツを「健康」「教育」「地域活性化」と結びつけ、社会に貢献するブランドとしての存在感を高めていく方針です。
アシックスの会長は誰？経営方針から見える未来像
改めてまとめると、アシックスの会長は廣田康人氏。商社出身という異色の経歴ながら、冷静な分析力と現場感覚を武器に、ブランド再生と成長を同時に実現したリーダーです。
彼の掲げる「高付加価値・製販一体・社会貢献」という三本柱の経営は、単なる数字上の成功にとどまらず、アシックスを“人と地球の健やかさを支えるブランド”へと進化させました。
これからのアシックスは、競技シューズだけでなく、ファッション、ライフスタイル、サステナビリティといった新しい領域でも存在感を高めていくでしょう。そしてその中心には、走り続けるリーダー・廣田康人会長の姿があるのです。
