アシックスが掲げる「中期経営計画2026」は、単なる数値目標の発表ではありません。2030年に向けた長期ビジョン「VISION2030」を実現するための道筋として、企業の在り方を根本から見直す挑戦でもあります。この記事では、その中期経営計画の内容、成長戦略、数値目標、そしてアシックスが目指す未来像についてわかりやすく解説します。
アシックスの中期経営計画とは?背景と目的を理解する
アシックスの「中期経営計画2026」は、2024年から2026年までの3年間を対象とした経営戦略です。その背景には、グローバル市場での競争力を高め、デジタル技術を活用しながら持続可能な成長を実現するという強い意志があります。
アシックスは近年、スポーツブランドとしての信頼性を高める一方で、ランニング・スポーツ・ライフスタイルといった多様なカテゴリーを持つ総合ブランドへと進化してきました。その成長を次の段階に引き上げるために打ち出されたのが、今回の中期経営計画です。
この計画の中心にあるキーワードは「Global × Digital」。世界市場でのプレゼンスを高めるとともに、デジタル活用によって顧客体験を一段と深化させることが狙いです。
数値目標で見るアシックスの挑戦
まず注目すべきは、明確に設定された財務目標です。
当初の「中期経営計画2026」では、
- 営業利益800億円以上
- 営業利益率約12%
- 売上高年平均成長率7〜10%
- ROA(総資産利益率)10%前後
といった目標が掲げられました。
しかし、2024〜2025年の業績が想定を上回ったため、2024年11月にアシックスはこれらの目標を上方修正しています。新たな目標値は以下の通りです。
- 営業利益:1,300億円以上
- 営業利益率:17%以上
- ROA:約15%
つまり、当初3年後に到達するはずだった成果を、わずか2年で実現できる見込みなのです。これは単なる業績好調ではなく、アシックスの事業構造そのものが強化されている証拠といえます。
成長を支える3つの柱:「グローバル」「ブランド」「効率化」
アシックスの中期経営計画では、明確な戦略軸が3つあります。
1. グローバル市場での拡大
「グローバル統合企業」への変革が最大のテーマです。北米・欧州といった主要市場の収益性を高めるだけでなく、中国、インド、東南アジアなど新興国市場にも積極的に進出しています。
また、地域ごとに異なる文化や嗜好に合わせたマーケティング戦略を採用し、世界中で一貫したブランドイメージを維持しながらも、柔軟なローカル戦略を展開しています。
これにより、単なる“日本発ブランド”ではなく、真の“グローバルスポーツブランド”としての地位を確立しようとしています。
2. ブランド体験価値の強化
アシックスは製品の性能だけでなく、顧客が得る「ブランド体験価値」を重視しています。
具体的には、次のような取り組みが進められています。
- 会員プログラム「OneASICS」の拡大
- ECサイト・直営店・卸売のチャネル最適化
- データを活用した顧客体験のパーソナライズ
- ブランドストーリーを発信するグローバルキャンペーン展開
たとえば「OneASICS」は、購買履歴やランニングデータなどを活かして個別のおすすめ商品を提示するなど、ブランドとの関係を深める仕組みとして注目されています。
このように、単なる“モノ売り”から“体験を提供するブランド”への転換が進んでいます。
3. オペレーショナル・エクセレンス(効率化と改革)
もうひとつの柱が「効率化と改革」です。
サプライチェーン全体の最適化、在庫管理のデジタル化、物流コストの削減などを通じて収益構造を改善。製造から販売までのスピードを上げることで、世界規模での生産・販売体制を強化しています。
また、研究開発(R&D)にも重点を置き、「ASICS Innovation Campus(仮称)」の設立を進めています。ここでは、スポーツ科学、バイオメカニクス、データ分析を掛け合わせた新しい製品づくりを目指しており、デジタルとフィジカルを融合した“次世代のスポーツテクノロジー企業”を志向しています。
カテゴリー戦略:複数の収益源を育てる
アシックスの事業は大きく4つの領域で構成されています。
- パフォーマンスランニング
- スポーツスタイル(SPS)
- Onitsuka Tiger
- コアスポーツ(テニス・バレーなど)
近年特に好調なのが、スポーツスタイル(SPS)とOnitsuka Tigerです。
これらは単なるシューズブランドではなく、ファッション要素を取り入れた“ライフスタイルブランド”として国内外で人気を集めています。
パフォーマンスランニングが安定した基盤である一方、SPSやOnitsuka Tigerが高収益を生むことで、全体としてリスク分散の効いた収益構造へと変化しています。
ESGと人的資本への投資
アシックスは中期経営計画のなかで「非財務目標」にも力を入れています。
具体的には次のような指標を設定しています。
- 女性管理職比率:40%以上
- 障害者雇用率:4.0%
- 社員エンゲージメントスコア:70
- OneASICS会員数:3,000万人以上
これらの目標は単なる数字ではなく、「人を大切にする企業文化」を体現するもの。
スポーツブランドとして“心身の健やかさ”を提唱するアシックスらしい取り組みといえます。
また、資本政策の面でも、自己株式の取得・消却、政策保有株の削減、配当強化などを通じて、株主との信頼関係を重視しています。
企業ガバナンスと持続可能性を両立させる姿勢は、国内外の投資家からも高く評価されています。
計画の上方修正が示す「構造的成長」
2025年8月、アシックスは通期業績を再び上方修正しました。
売上高は8,000億円、営業利益は1,360億円、営業利益率は17%に達する見込み。
これにより、中期経営計画の目標を1年前倒しで達成する勢いです。
この結果は偶然ではなく、デジタル化・ブランド戦略・生産改革が一体となって機能している証です。
特に、ECを中心としたDTC(Direct to Consumer)モデルの強化が、利益率の向上に大きく寄与しました。
同社はすでに次期計画(2027〜2029年)に向けた準備も始めており、「売上1兆円企業」への道を視野に入れています。
アシックスが描く未来:グローバル×デジタルの融合企業へ
アシックスの中期経営計画2026は、「Global × Digital × Brand × Efficiency」を軸にした多面的な変革プロジェクトです。
- 世界各地域の販売ネットワークを統合し、グローバルブランドとしての存在感を高める
- 顧客体験を中心に据え、EC・アプリ・会員制度を通じてブランド価値を拡張
- オペレーションとデジタルを融合させた効率的な企業体質へ
- ESGやダイバーシティにも配慮し、社会と共に成長する企業像を確立
これらの取り組みによって、アシックスは単なるスポーツメーカーから「世界で愛される総合ブランド」へと進化しつつあります。
アシックスの中期経営計画が目指す成長戦略の本質
最後に、もう一度振り返りましょう。
アシックスの中期経営計画が目指すものは、単なる売上や利益の拡大ではなく、「ブランドとしての進化」と「社会における存在価値の向上」です。
スポーツを通じて人々の心と体を健やかにし、地球環境や社会課題にも真摯に向き合う——。
その姿勢こそが、アシックスが中期計画で掲げる本質的な成長戦略なのです。
これからのアシックスが、どのように世界とつながり、どんな新しい価値を創造していくのか。
中期経営計画2026は、その未来への「助走」といえるでしょう。


