アシックスとキコ・コスタディノフのコラボは、単なるスニーカーの枠を超えた“デザインと機能の融合”として、ファッション業界でも特別な存在感を放っています。この記事では、両者の出会いから最新作まで、その魅力を深掘りしていきます。
キコ・コスタディノフとは?構築的デザインの鬼才
キコ・コスタディノフは、ブルガリア出身のファッションデザイナー。ロンドンの名門「セントラル・セント・マーチンズ」を卒業し、2016年に自身のブランドを立ち上げました。彼の作風は一貫して「構築的」「機能的」「ユニフォーム的」。つまり、衣服を“デザインされた道具”として捉える姿勢が特徴です。
彼はイギリスの老舗ブランド「Mackintosh 0001」のデザインディレクターも務めた経歴を持ち、ワークウェアやユーティリティウェアの美学を現代的に再構築することに長けています。その思想が、アシックスとの出会いによってスニーカーという新たなキャンバスで花開いたのです。
コラボの始まり:GEL-BURZ 1から始まる物語
アシックスとキコのコラボは、2018年春夏コレクションで発表された「GEL-BURZ 1」からスタートしました。このモデルは、アシックスのランニング用ソール「GEL-NIMBUS 20」と、トレイル用アッパー「GEL-VENTURE 6」を組み合わせたハイブリッド設計。まるで異素材を縫い合わせるような大胆な構成で、スポーツとファッションの境界を軽々と超えていきました。
GEL-BURZ 1 は単なる限定モデルではなく、アシックスの高い機能性をそのままに、キコならではのアート的な再構築を加えた革新的な一足。透け感のあるTPUフィルムや薄ラバー層の重ねによって、既存のスニーカーにはない立体感と構造的美しさが生まれました。
この成功を皮切りに、翌年には「GEL-BURZ 2」、続いて「UB2-S GEL-1130」や「GEL-KORIKA」など、複数の名作が続々登場します。
デザインの核心:ミニマルなのに前衛的
キコ・コスタディノフのデザインを一言で表すなら「構築美の中の混沌」。アシックスとのコラボモデルも例外ではありません。アッパーの分割ラインやカッティングは、単なる装飾ではなく、構造そのものがデザインになっています。
特徴的なのは、アシックスの象徴であるサイドのストライプを大胆に変形させたり、部分的に消失させたりしている点。これはブランドロゴに依存しない“構造そのものの美しさ”を追求するキコの哲学を反映しています。
さらに、色彩設計にも独特の感性が見られます。彼の出身地ブルガリアの陶器や民族衣装を思わせる、深みと濁りのあるトーンが多く使われ、モードファッションとしても成立する完成度に仕上がっています。
機能性も一切の妥協なし:ASICSの技術力
キコのデザイン哲学がファッション性を生み出す一方で、アシックスの技術力が確実に“履き心地の保証”を担っています。
アシックスの象徴的テクノロジーであるGEL(ゲル)クッションシステムは、すべてのコラボモデルに搭載。衝撃吸収と反発性のバランスに優れ、長時間の歩行やランニングでも快適です。
例えば、GEL-TEREMOAでは厚みのあるミッドソールと高反発フォームが組み合わされ、アートピースのようなフォルムながらも実用性を損ないません。アウトソールの巻き上げ構造やヒール補強によって安定感も抜群。まさに「見た目と機能の二刀流」です。
さらに2025年登場の「GEL-KIRIL III」では、安全靴を思わせるTPU素材の隆起パーツを採用。工業的でタフな印象を放ちながら、ファッション性を損なわない絶妙なバランスを実現しています。
ASICS NOVALIS:新たなフェーズへ
アシックスとキコの関係は、単なるコラボレーションの枠を超えました。2022年には、両者の共同ライン「ASICS NOVALIS(アシックス ノバリス)」が誕生。ここではスニーカーだけでなく、アウター、トラックスーツ、シャツジャケットなどアパレル全体を展開しています。
ASICS NOVALISの特徴は、アシックスの機能性ウェアをキコのデザイン視点で再構築している点。撥水素材や軽量ナイロンなどの高機能素材を使用しつつ、立体的なカッティングや非対称のラインで“モード感”を演出しています。
この流れにより、アシックス × キコは単なるスニーカートレンドではなく、“ファッションブランドとしての一貫した世界観”を持つ存在へと進化しました。
アシックス キコ コスタディノフ コラボの代表モデルたち
アシックスとキコが生み出した代表作をいくつか挙げると、以下のようになります。
- GEL-BURZ 1(2018)
ランニングとトレイルの融合。構築的デザインの原点。 - GEL-KORIKA(2019)
スポーツとモードを行き来するスムーズなライン。都会的で軽快な印象。 - UB2-S GEL-1130(2020)
アシックスの定番ランニングモデルをベースに、キコらしい工業的アレンジ。 - GEL-TEREMOA(2024)
NOVALIS ラインを象徴する一足。クッション性・安定性・造形美が共存。 - GEL-KIRIL III(2025)
安全靴に着想を得た異色のモデル。デザインと実用の究極的融合。
これらのモデルはいずれも、ASICSのアーカイブを再構築しながら新しい価値を生み出しており、“機能美”という言葉がこれほど似合うコラボも珍しいでしょう。
ファッションシーンにおける評価と影響力
アシックス × キコ コスタディノフは、世界的なファッションシーンでも高く評価されています。
その理由は、「スニーカーをただの“履くもの”から“着るもの”へ昇華させた」点にあります。
多くのコラボが話題性に頼る中で、このペアは実直に“思想と技術”を積み重ねてきました。結果として、ハイファッションのショーにもスニーカーが自然に登場する流れを作り出し、モードブランドとスポーツブランドの距離を縮めたのです。
また、コレクターだけでなく、日常の中で履くユーザーからの支持も厚い点が特徴。機能性が高いため、見た目の美しさだけでなく、実際に“使える靴”として評価されています。
入手難度と展開店舗
アシックス × キコ コスタディノフのスニーカーは、基本的に数量限定でリリースされるため、入手は容易ではありません。発売のたびにアシックス公式オンラインストアや原宿フラッグシップで抽選販売が行われ、国内では一部のセレクトショップ(Dover Street Market、ELIMINATOR など)でも展開されています。
近年は再販や復刻も増えているため、以前よりは手に入りやすくなっていますが、モデルによっては即完売となるケースも少なくありません。購入を検討する場合は、発売時期のチェックと会員登録が必須です。
未来への展望:進化し続ける“機能と美の実験場”
アシックスとキコのコラボは、すでに一つの「実験的デザインプラットフォーム」となっています。
これからの展開では、さらに異素材や3D構造、リサイクル素材など、サステナビリティを意識した新しい方向性も期待されています。
また、ファッションにおける“機能性の再評価”という潮流の中で、アシックス × キコのプロジェクトはその象徴的存在として位置づけられていくでしょう。スニーカー文化とモードデザインをつなぐ橋梁として、今後も進化を止めないはずです。
アシックス キココスタディノフコラボが残すもの
アシックス キココスタディノフコラボは、単なるブランド間のコラボではありません。
それは「道具としての靴」を「芸術としてのデザイン」に昇華させた、機能と美の融合体です。
このシリーズを通してアシックスは「スポーツブランドの枠を超えた表現力」を、キコは「実用の中に宿る美意識」を体現しました。その結果生まれたのは、履くたびに発見があるプロダクト。
それこそが、このコラボが“名作”と呼ばれるゆえんです。


