スポーツブランドの中でも、日本発として世界的に知られる「アシックス」。
ランニングシューズの代名詞として、また日本企業の誇りとして愛される存在ですが、その名前の由来を正確に知っている人は意外と少ないかもしれません。
「足が6本でアシックス?」「足+Xで無限の可能性?」といった説を耳にしたことがある人もいるでしょう。
しかし本当の由来は、もっと深く、もっと人間的な“理念”に基づいたものでした。
ここでは、アシックスの名前に込められた意味と、創業者・鬼塚喜八郎が託した想いをじっくり紐解いていきます。
アシックスの由来はラテン語「Anima Sana In Corpore Sano」
アシックスの社名は、ラテン語のフレーズ
「Anima Sana In Corpore Sano(アニマ・サナ・イン・コルポレ・サノ)」
の頭文字を取ったものです。
意味は「健全な身体に健全な精神があれ」。
英語で言えば “A Sound Mind in a Sound Body”。
古代ローマの詩人ユウェナリスが残した有名な言葉で、「もし神に祈るなら、まず健全な身体と精神を求めよ」という教えを表しています。
アシックスでは、この中の “Anima(生命・魂)” を採用しています。
一般的なラテン語の格言では “Mens(精神)” ですが、創業者はあえて “Anima” に置き換えました。
これは、単なる「心」ではなく「生命」そのものを尊ぶという意味。
つまり、アシックスのブランド哲学は「心身の健康」だけでなく、「生きる力そのもの」を大切にするという考え方に基づいています。
“足+X”ではなかった? 意外に知られていない俗説の真相
「アシックス=足(アシ)+無限(X)」という説を聞いたことがある人も多いでしょう。
さらには「3社が合併して足が6本だからアシックス」といった話も、ネット上でよく語られています。
けれども、これはあくまで“都市伝説”。
スペルのASICSは「A+S+I+C+S」であり、「ASHIX」や「ASIX」ではありません。
創業者自身も、後年インタビューで「そう言われるのは心外」と笑いながら否定しています。
本来の意味は明確です。
ASICSは、ラテン語の理念を略した社名。
つまり「言葉の遊び」ではなく、「人間の健康と成長」を願う信念から生まれた名前なのです。
創業者・鬼塚喜八郎の原点――戦後の日本に“スポーツの力”を
1949年。戦後の混乱が続く神戸で、一人の青年が立ち上がりました。
彼の名は 鬼塚喜八郎。のちにアシックスの創業者となる人物です。
当時の日本は物資も希望も乏しく、若者たちは目標を失っていました。
鬼塚はそんな時代に、「スポーツこそが人を健全にする」と信じました。
その想いから、体育館の片隅でたった数人の仲間とともに靴づくりを始めたのです。
最初の製品は、バスケットボールシューズ。
しかし材料も技術もなく、夜を徹して試行錯誤する日々でした。
ある晩、食卓にあったタコの吸盤にヒントを得て、靴底に吸着型のソールを開発。
これが後の“鬼塚タイガー”の原点となります。
「スポーツの力で青少年を健全に育てたい」
その情熱が、アシックスというブランドの最初の一歩でした。
3社合併で「アシックス」へ――1977年の転換点
鬼塚が創業した「鬼塚商会」は、のちに「オニツカ株式会社」として知られるようになります。
1977年、この会社はGTO・Jelenkの2社と合併。
ここで初めて社名を「ASICS」に変更しました。
この合併は単なる企業再編ではなく、「スポーツを通じて社会を元気にする」理念をより広く展開するためのステップ。
ランニング、バレーボール、陸上、テニスなど、あらゆるスポーツカテゴリーへと事業を拡大しました。
当時から一貫していたのは、「人間中心のものづくり」。
靴やウェアを“商品”ではなく、“人の健全な心身を支える道具”として開発していく姿勢です。
その精神が、アシックスという社名の由来にも直結しているのです。
「Anima」を選んだ理由――命を支えるブランドであるために
ラテン語の原文では “Mens Sana in Corpore Sano”。
つまり「健全な精神は健全な身体に宿る」。
けれどもアシックスは、それを “Anima Sana In Corpore Sano” に置き換えました。
この違いには、深い哲学があります。
“Mens(精神)” は思考や理性を意味しますが、
“Anima(アニマ)” は「命・魂・心の根源」を示します。
鬼塚喜八郎は、スポーツを「心の教育」であり「生きることそのもの」と考えていました。
単なる競技の勝ち負けではなく、人間の魂を健やかに育む手段。
だからこそ、彼は「アニマ」という言葉を選んだのです。
アシックスが掲げるスローガン「Sound Mind, Sound Body(健全な精神は健全な身体に宿る)」は、まさにこの考えを現代的に言い換えたもの。
70年以上経った今も、創業時の精神は変わっていません。
ブランド哲学が製品づくりに生き続ける
アシックスの製品を手に取ると、その理念が随所に感じられます。
ランニングシューズに搭載されたクッション素材「FF BLAST」や「GEL」などのテクノロジーは、単に速く走るためのものではありません。
衝撃を和らげ、身体の負担を減らし、長く健康に走れるようにするための技術です。
鬼塚はかつて、「優れたシューズは足を守り、心も前向きにする」と語っていました。
その考えが、研究開発やデザインに今も息づいています。
製品づくりの根底には常に「人間の健全な生活を支える」というテーマがあるのです。
そしてこの姿勢は、スポーツシューズだけでなく、ウォーキング、トレーニング、ライフスタイル、さらにはリハビリや介護分野の製品にも広がっています。
アシックスが単なる“スポーツブランド”にとどまらず、“健康を支えるブランド”として評価される理由は、まさにここにあります。
世界に広がるアシックスの理念
アシックスの哲学は日本発でありながら、世界中で共感を呼んでいます。
欧米では “A Sound Mind in a Sound Body” の言葉が広く浸透し、
アスリートだけでなく一般の人々にも「健康な生き方」の象徴として支持されています。
また、アシックスは環境配慮や社会貢献にも力を入れています。
カーボンニュートラル素材の導入、リサイクルポリエステルの使用、子どものスポーツ教育支援など、
“心身の健全さ”を社会全体へ広げる活動を続けています。
ブランド名の由来に込められた理念が、企業行動そのものに生きている――
それが、アシックスというブランドの最大の強みです。
アシックスの名前の由来が今も語り継がれる理由
ブランド名の由来を知ると、靴に込められた想いが違って見えてきます。
アシックスという名前には、「身体と心、そして命を大切にする」という一貫した信念が刻まれています。
現代社会では、運動不足やストレスなど“健全な身体と精神”を保つことが難しくなっています。
そんな時代だからこそ、アシックスの理念はより強く響きます。
スポーツを通じて心と身体を整えること。
それが人生をより豊かにするという信念。
この普遍的なメッセージこそ、創業から今に至るまでアシックスが変わらず伝え続けてきたものです。
まとめ:アシックスの名前に宿る創業者の魂
アシックスの名前の由来とは、ラテン語の格言「Anima Sana In Corpore Sano」。
そこには「健全な身体に健全な精神を」という普遍の真理と、
創業者・鬼塚喜八郎の「スポーツで人を幸せにしたい」という想いが込められています。
“足+X”ではなく、“生命+健全さ”の象徴。
それがアシックスの本当の意味です。
時代が変わっても、この理念は色褪せません。
靴ひとつ、ウェアひとつにも、「人の命と心を大切にする」という哲学が宿っています。
アシックスの名前の由来を知ることは、単にブランドを理解することではなく、
「健全に生きる」という人間の本質を見つめ直すことでもあるのです。


