ランニングシューズを選ぶときに、多くの人が重視するのが「軽さ」と「クッション性」。この二つをどちらも高いレベルで実現したのが、アシックスの独自素材「FlyteFoam（フライトフォーム）」です。
この記事では、その誕生背景から技術の仕組み、実際の履き心地、そして進化の過程まで、FlyteFoamの実力を深く掘り下げます。
- FlyteFoamが生まれた理由 ― 軽量化とクッション性の両立を目指して
- FlyteFoamの構造 ― なぜ軽いのにしっかり反発するのか
- 軽さのインパクト ― 長距離でも疲れにくい
- 反発力の魅力 ― “弾む”走りを支える設計
- FlyteFoamの進化系 ― 用途に応じた多様なフォーム
- FlyteFoam採用モデル ― 代表的なシューズたち
- FlyteFoamの利点 ― ランナーにとっての実際のメリット
- 他素材との比較 ― FlyteFoamは“万能型”の立ち位置
- 注意点 ― 全てのランナーに万能ではない
- FlyteFoamがもたらした価値 ― アシックスの哲学と技術の象徴
- まとめ：アシックスFlyteFoamの実力をもう一度見直そう
FlyteFoamが生まれた理由 ― 軽量化とクッション性の両立を目指して
アシックスは長年、ランナーの走りを科学的に分析してきました。その中で突き当たったのが、「軽さを追求するとクッション性が失われ、クッション性を上げると重くなる」というジレンマです。
この相反する要素を両立させるため、2011年に素材研究チームが立ち上がり、従来のE.V.A.素材を超える新たなフォーム開発が始まりました。
試行錯誤の末、2016年に完成したのがFlyteFoamです。E.V.A.より約55％も軽量でありながら、クッション性と耐久性を維持。これは、アシックスのランニングテクノロジー史において大きな転換点でした。
FlyteFoamの構造 ― なぜ軽いのにしっかり反発するのか
FlyteFoamの秘密は、ポリマー素材に特殊な「繊維（ファイバー）」を練り込んだ複合構造にあります。
このファイバーが内部の発泡構造を補強することで、潰れすぎず、素早く形を戻すことが可能に。
結果として、軽量ながら「踏み込み→衝撃吸収→反発」という流れがスムーズに行われ、蹴り出しのエネルギーを効率よく次の一歩に変換できます。
つまりFlyteFoamは、柔らかさと弾む感覚をバランスよく融合させた“走りを助けるフォーム”なのです。
軽さのインパクト ― 長距離でも疲れにくい
FlyteFoamのもう一つの特徴は、圧倒的な軽さです。
従来素材より約55％軽く、足への負担を大幅に軽減します。
たとえば、フルマラソンのような長時間のランでは、1歩ごとのわずかな軽量化が積み重なり、最終的に数百グラムの差となって現れます。
実際にFlyteFoam搭載シューズを履いたランナーからは、「足が自然に前に出る」「後半も脚が重くなりにくい」という声が多く聞かれます。
軽さは単なる“重量の話”ではなく、ランニングフォーム全体の安定性や疲労感にも影響を与える重要な要素です。
反発力の魅力 ― “弾む”走りを支える設計
軽いだけでは、良いシューズとは言えません。FlyteFoamが多くのランナーに支持される理由は、その反発力にもあります。
一歩一歩の蹴り出しでフォームが素早く復元し、まるで地面から押し返されるような感覚をもたらします。
この反発性が特に活きるのは、テンポランやペース走のような中速～高速のラン。
足裏全体で接地しても沈み込みすぎず、しっかりとエネルギーが前方へ伝わるため、効率の良いランニングフォームを維持できます。
FlyteFoamは「沈む柔らかさ」ではなく、「弾む柔らかさ」。この違いが、ランナーに“飛ぶような”軽快さを感じさせるのです。
FlyteFoamの進化系 ― 用途に応じた多様なフォーム
アシックスはFlyteFoamをベースに、用途やランナーのタイプに合わせた派生モデルを開発しています。
- FlyteFoam Lyte（ライト）
セルロースナノファイバー（CNF）を配合し、軽量性はそのままに耐久性を強化。長距離トレーニングやフルマラソンに適したバランス型モデル。 - FlyteFoam Propel（プロペル）
反発力を重視したタイプで、テンポ走やスピード練習向け。蹴り出しの力をより前方へ押し出す設計。 - FlyteFoam Blast / Blast+
近年主流となっている次世代フォーム。柔らかさと反発をさらに進化させ、上級ランナーのレース用にも対応。
このように、FlyteFoamは単なる素材ではなく、“進化するテクノロジー”としてアシックスシューズ全体の基盤を支えています。
FlyteFoam採用モデル ― 代表的なシューズたち
アシックスのラインナップで、FlyteFoamは多くのモデルに採用されています。代表的なものを挙げると以下の通りです。
- DynaFlyteシリーズ：軽量でテンポ走に最適。FlyteFoamの名を冠した象徴的モデル。
- NOOSAシリーズ：トライアスロン対応の軽量モデル。FlyteFoamが長時間の走りを支える。
- GEL-KAYANO、GEL-NIMBUSシリーズ：FlyteFoamとGELを組み合わせた設計で、安定性とクッション性を両立。
- GTシリーズ：トレーニング向けに耐久性を強化し、日常ランやジョグにも最適。
どのモデルも、「軽いのにしっかり守ってくれる」という共通点を持っています。
FlyteFoamの利点 ― ランナーにとっての実際のメリット
FlyteFoamを採用したシューズの特徴を、ランナー視点で整理すると以下のようになります。
- 軽くて疲れにくい：一歩ごとの負担を減らし、長時間でも脚が重くなりにくい。
- 反発性が高くリズムが取りやすい：テンポランやレースでスムーズな推進力を実感できる。
- 耐久性があり型崩れしにくい：繊維補強によってフォームのヘタリを軽減。
- 安定性が高い：軽さと反発に加え、アシックス特有のガイダンス構造で着地も安定。
- 汎用性が高い：初心者から上級者、ジョグからレースまで幅広く対応。
特定のスピードや目的に偏らず、あらゆるランナーにとって“ちょうどいい”性能を発揮するのがFlyteFoamの強みです。
他素材との比較 ― FlyteFoamは“万能型”の立ち位置
ナイキのZoomXやアディダスのLightstrike Proなど、他社も軽量フォームを開発しています。
それらが爆発的な反発力や軽さを追求する一方で、FlyteFoamは「バランスの良さ」を重視しているのが特徴です。
極端に弾む感覚ではないため、レース専用というよりも“日常的に履ける高性能フォーム”。
ランニングだけでなくウォーキングや通勤、ジムトレーニングにも使える汎用性が魅力です。
この中庸さこそ、多くのランナーがFlyteFoamを「信頼できる素材」として選ぶ理由でしょう。
注意点 ― 全てのランナーに万能ではない
とはいえ、FlyteFoamにも弱点があります。
非常に軽量な分、アウトソールの厚みやグリップ性が控えめなモデルでは、耐久面で早く消耗する場合もあります。
また、カーボンプレート搭載モデルのような爆発的反発を求めるランナーには物足りなく感じるかもしれません。
つまりFlyteFoamは、スプリントやトップレース向けというより、「毎日使える高機能フォーム」という立ち位置。
自分の走り方や目的に合わせて選ぶことが大切です。
FlyteFoamがもたらした価値 ― アシックスの哲学と技術の象徴
FlyteFoamは単なる素材ではなく、アシックスが掲げる“人を中心としたものづくり”を体現するテクノロジーです。
研究所での膨大なデータ分析と、ランナーの生体計測をもとに開発されたこのフォームは、「軽く」「弾む」だけでなく「足に優しい」ことを重視しています。
アシックスはFlyteFoamの成功を足がかりに、FF Blastシリーズなどの新素材開発にもつなげています。
これらの進化はすべて、ランナーの快適さを科学的に追求するという同社の姿勢の延長線上にあります。
まとめ：アシックスFlyteFoamの実力をもう一度見直そう
FlyteFoamは、軽量で反発性が高く、耐久性にも優れたアシックス独自のミッドソール素材です。
その開発背景には、軽さとクッション性という相反する課題を克服するための長年の研究があります。
結果として、ランナーは「軽やかに」「弾むように」「長く快適に」走ることが可能になりました。
日々のトレーニング、長距離ラン、通勤ラン、さらにはウォーキングまで。あらゆるシーンでFlyteFoamの恩恵を感じることができるでしょう。
アシックスFlyteFoamは、単なる素材ではなく、ランナーの一歩を支える“驚きのテクノロジー”そのものです。
