オニツカタイガーのデザイナーが語るブランド哲学と新作コレクションの魅力
オニツカタイガーという名前を聞くと、多くの人がクラシックなスニーカーを思い浮かべるかもしれません。しかし今、そのブランドは単なるスポーツシューズメーカーを超え、ファッションシーンの中で独自の存在感を放っています。その変化の中心にいるのが、イタリア人デザイナー、アンドレア・ポンピリオです。彼が語るオニツカタイガーの哲学には、過去の遺産を未来につなぐ明確なビジョンがあります。
ブランドの原点に宿る“機能美”という精神
オニツカタイガーの歴史は、1949年に創業者・鬼塚喜八郎が神戸で立ち上げたシューズブランドに遡ります。当時の日本は戦後復興期。鬼塚は「スポーツで若者に希望を与えたい」という想いから、最初のバスケットボールシューズを開発しました。この理念こそが、今日に至るまでブランドの根底に流れる“人を前向きにする靴づくり”の精神です。
機能性への徹底したこだわりも、オニツカタイガーの原点を象徴する要素です。1950年代には吸盤のようなソールを持つ「オクトパスシューズ」が登場し、グリップ力を革新的に向上させました。これが「技術とデザインの融合」というブランドDNAの始まりです。
やがて「メキシコ66」に代表される、交差するストライプのシグネチャーデザインが誕生。このデザインは単なる装飾ではなく、足の動きを安定させるための構造的役割を担っていました。つまり、オニツカタイガーの美しさは常に“機能に裏打ちされたデザイン”なのです。
アンドレア・ポンピリオがもたらした新しい息吹
そんな伝統を継承しながらも、現代のファッションシーンに合った新しい解釈を加えたのがアンドレア・ポンピリオです。建築家の父とブティック経営者の母を持つ彼は、幼少期から「構造」と「美意識」の両方に触れて育ちました。イタリア・ミラノでファッションを学び、ディーゼルやプラダなどの一流ブランドで経験を積んだ後、自身のブランドを立ち上げます。
2013年、彼はオニツカタイガーと出会い、その後クリエイティブディレクターに就任。以降、ブランドの国際的再評価を牽引してきました。彼のデザイン哲学は、シンプルにして力強いものです。「過去を敬いながらも、今を生きる人のために新しい価値を作る」。その姿勢が、オニツカタイガーの進化を象徴しています。
ポンピリオは語ります。「オニツカタイガーは日本の文化、クラフトマンシップ、そして控えめな美を持つブランド。それをイタリア的な感性で再構築することが私の役割だ」。この発言には、異なる文化を融合し、グローバルブランドとしての新たな姿を形づくる強い意志が感じられます。
ヘリテージとモダンの融合が生む独自の世界観
オニツカタイガーのデザインを語る上で欠かせないキーワードが、「ヘリテージ」と「モダン」の両立です。ブランドの歴史に敬意を払いながらも、現代的な素材やシルエットを取り入れることで、懐かしさと新しさを同時に感じさせるプロダクトを生み出しています。
たとえば、クラシックモデルの「メキシコ66」や「GSM」は、当時の形を保ちながらも、アッパー素材やカラーパレットを現代仕様にアップデート。街にも馴染むモードな印象に仕上げられています。一方で、厚底ソールを取り入れた「デンティグレ」や「モアジーコー」などの新ラインは、ポンピリオの現代的感覚を体現するモデルとして注目を集めています。
つまり、オニツカタイガーは過去の復刻にとどまらず、「現代に通じる再構築」を続けているのです。これは単なる懐古ではなく、ブランドが生き続けるための進化そのものといえます。
新作コレクションが示す“都会的ファンタジー”
2026年春夏コレクションのテーマは「アーバンファンタジー(Urban Fantasy)」。過去のアーカイブを振り返りながらも、未来的で幻想的な都市像を描いたラインアップが印象的です。テーラードジャケットやランニングショーツ、プリーツスカート、異素材を組み合わせたライダースブルゾンなど、スポーツとモードが自然に溶け合っています。
今回のコレクションで注目すべきは、“動きやすさ”と“造形美”の両立です。ジャージ素材に見えるトップスが実は構築的なカットで成形されていたり、スニーカーのラインがドレスのシルエットに溶け込んでいたりと、細部まで緻密に設計されています。まさに「ファッションとしての機能性」というオニツカタイガーらしさが際立っています。
ポンピリオはインタビューでこう語っています。「私は、街を歩く人のリアルな動きや姿勢を常に観察している。だからデザインの出発点は“日常”だ。しかし、その中に少しの夢や幻想を加えたい」。この“リアルとファンタジーの融合”こそ、今のオニツカタイガーを象徴するコンセプトです。
デザインの背後にある日本文化へのリスペクト
アンドレア・ポンピリオが繰り返し強調するのは、日本文化に対するリスペクトです。彼は京都や東京の街並みからインスピレーションを受け、和の美意識や職人技をデザインに落とし込んでいます。無駄を削ぎ落とすミニマリズム、素材へのこだわり、そして控えめでありながら印象的なディテール。これらはすべて日本的な美学を反映しています。
オニツカタイガーが展開する「NIPPON MADE」シリーズは、その象徴です。熟練の職人による手作業で仕上げられたスニーカーは、単なるファッションアイテムを超え、クラフトとしての価値を持っています。ポンピリオの感性がこのシリーズに加わることで、伝統と現代が共鳴する新しい日本の美を体現しているのです。
ブランドの拡張:靴からライフスタイルへ
オニツカタイガーの現在の展開は、スニーカーにとどまりません。アパレルやアクセサリー、香水など、ライフスタイル全体を彩るプロダクトラインが充実しています。これは単に商品の幅を広げるというより、“生活そのものをデザインする”という思想に基づいています。
ブランドが目指すのは「街を生きる人のためのリアルファッション」。機能性、快適性、そしてデザイン性をすべて両立させることで、日常のあらゆるシーンに寄り添うスタイルを提案しています。スポーツブランドからファッションブランド、そしてライフスタイルブランドへ──この進化は、アンドレア・ポンピリオのビジョンなしには語れません。
国際ブランドとしての飛躍と挑戦
オニツカタイガーは現在、アジア、ヨーロッパ、アメリカを中心にグローバル展開を進めています。特にミラノやロンドン、パリなどファッションの都で行われるショーは高く評価され、ブランドとしての認知を確立しました。直営店中心の販売戦略も功を奏し、世界中のファンとブランドが直接つながる仕組みが整っています。
それでも、ブランドの根底にあるのは“日本発のものづくり”です。海外市場においても「日本ブランドであること」は明確なアイデンティティであり、他のファッションブランドとは異なるオーセンティックな魅力を放っています。
オニツカタイガーが描く未来像
オニツカタイガーは、決して過去に頼るブランドではありません。むしろ、ヘリテージを武器に次の時代を切り開こうとしています。デザイナー・アンドレア・ポンピリオの哲学に共通するのは、“変わらないために変わり続ける”という姿勢です。
ブランドの進化は、単なるトレンドの追随ではなく、社会の価値観やライフスタイルの変化を見据えたもの。持続可能性や多様性といった現代的テーマを取り入れつつも、そこに過剰な主張はありません。あくまで自然に、上質に、そして日常の中で機能する美しさを追求しています。
オニツカタイガーのデザイナーが語るブランド哲学と新作コレクションの魅力(まとめ)
オニツカタイガーは今、ブランドとして第二の黄金期を迎えています。創業者の理念に基づく“機能美”と、アンドレア・ポンピリオがもたらした“モードな革新”。この二つが交わることで、過去と未来をつなぐ架け橋のようなブランドへと成長しました。
伝統と挑戦、スポーツとファッション、日常と夢。そのすべてを融合させたオニツカタイガーの世界観は、他のどんなブランドにも代えがたい独自性を放っています。これからも、彼らがどんな形で“歩くことの美学”を表現していくのか。デザイナーの哲学を軸に、その進化を見守りたいところです。


