現場での「釘の踏み抜き事故」は、意外と身近なリスクです。
足元に落ちた一本の釘が、ほんの一瞬の油断で足裏を突き刺す──そんな痛ましい事故を防ぐために欠かせないのが「踏み抜き防止機能付きの安全靴」。
この記事では、釘や鋭利物から足を守るための安全靴の選び方や、作業内容に合わせたおすすめポイントをわかりやすく解説します。
釘の踏み抜き事故が起こる現場とは?
釘を踏むリスクは、建築現場や解体作業だけに限りません。
リフォーム・清掃・造園・産廃・設備工事など、あらゆる場所で「床面に釘や破片が散乱している」状況は起こり得ます。
一見きれいに見える床でも、
・釘の頭が少し出ている
・金属くずやワイヤーが転がっている
・割れたガラス片が混じっている
といった条件下では、普通の靴では簡単に貫通してしまいます。
実際に、釘が足裏を突き抜けて出血・感染したり、最悪の場合は骨や神経にまで達することも。
だからこそ、現場では「耐踏抜き性」を備えた安全靴の着用が欠かせません。
耐踏抜き性とは?安全靴の基準を知る
安全靴の性能を客観的に示すのが、日本産業規格(JIS T8101)やJSAA(日本保安用品協会)の規格です。
その中でも「釘踏み抜き防止」に関係するのが、JIS規格の「P」マーク。
これは“耐踏抜き性”を意味し、試験用の釘を靴底に垂直に押し当てた際に、1,100N(約112kgf)以上の力でも貫通しないことが求められます。
つまり、日常的な荷重や作業時の踏み込みでは貫通しないレベルの強度。
ステンレス板や合成繊維プレートなどの「踏み抜き防止板」が靴底に内蔵され、釘・ガラス片・鉄片などの突き上げを防いでくれます。
一方、JSAA規格でもプロスニーカーと呼ばれる作業靴に「Pマーク」付きモデルがあります。
これらはスニーカーのような軽快さを保ちながら、踏み抜き防止機能を加えたタイプで、軽作業やDIY現場にも人気です。
踏み抜き防止構造のしくみを理解しよう
釘の踏み抜きを防ぐ仕組みは、大きく分けて2種類あります。
金属プレート内蔵タイプ
靴底と中底の間にステンレスプレートや鉄板を挟み込んだ構造です。
JIS基準でも多く採用されており、最も高い耐貫通性能を誇ります。
反面、やや重く、屈曲性が低くなる傾向があります。
非金属プレート(ケブラー・樹脂)タイプ
軽量で柔軟性があり、屈曲性を保ちながら踏み抜きを防止します。
金属探知ゲートを通る作業や、長時間歩行の多い作業に向いています。
どちらのタイプでも、靴底の厚み・中底の密着性・インソールの沈み込み具合によって性能差が出るため、単純に「プレート入りなら安心」とは言えません。
購入時には、JISまたはJSAAの耐踏抜き表示があるか必ず確認しましょう。
作業内容に合わせた安全靴の選び方
「釘踏み抜き防止」をうたう安全靴でも、作業内容に合っていなければ意味がありません。
用途別に最適な選び方を見ていきましょう。
① 解体・リフォーム・建築現場
釘・鉄片・ガラス片などが散乱する環境。
→ Pマーク付き+ハイカット+耐滑・耐油仕様のモデルがベスト。
靴底が厚く剛性のあるタイプを選びましょう。
重量は増しますが、足首をしっかりホールドしてくれるハイカットは安定感が高く、横ずれや捻挫防止にもつながります。
② 産廃・清掃・屋外作業
足元の見えない泥地・傾斜・水場では、釘だけでなく滑落も危険。
→ 防水・耐滑+踏み抜き防止板入りのブーツタイプが理想です。
滑りやすい床では、靴底の溝が深いグリップパターンを選びましょう。
③ 軽作業・DIY・防災用
軽量性や動きやすさを重視するなら、スニーカータイプの安全靴でもOK。
→ JSAA規格+非金属プレート入り+軽量設計がおすすめ。
見た目が普通のスニーカーでも、靴底に踏み抜き防止インソールを追加すれば安全性を高められます。
踏み抜き防止インソールで後付け対策もできる
「今使っている靴をそのまま活かしたい」という人には、**ミドリ安全 踏み抜き防止カップインソール**という選択肢もあります。
ミドリ安全やシモン インソール003などから販売されているモデルでは、厚さ0.5mmほどのステンレスプレートを中敷内部に内蔵し、釘やガラス片の貫通を防ぎます。
手持ちの安全靴やスニーカーに入れるだけで“簡易踏み抜き防止仕様”にアップグレードできる点が魅力です。
ただし、靴底がすでに摩耗していたり、柔らかい底材の場合は、インソールだけでは完全には防げません。
「靴本体の剛性+中敷補強」の両輪で考えるのが理想です。
よくある勘違いと注意点
安全靴を選ぶ際、よくある誤解を整理しておきましょう。
「先芯入り=踏み抜き防止」ではない
先芯(つま先保護)は落下物から守る機能で、足裏の貫通防止とは別物です。
釘の突き上げを防ぐには「Pマーク付き」「耐踏抜き板入り」であることが必要です。
「Pマーク付きなら絶対安心」とも限らない
規格試験では垂直方向の荷重でテストされますが、実際の現場では斜め方向から釘を踏む、片足荷重になるなど条件が異なります。
靴底の摩耗や経年劣化によって性能が落ちることもあるため、定期的な交換が大切です。
「踏み抜き防止インソールを入れれば大丈夫」も誤解
靴底が柔らかすぎたり、インソールがずれていたりすると、釘が板の隙間を突き抜けるリスクもあります。
後付けする場合はサイズをしっかり合わせ、位置がズレないように固定することが重要です。
安全靴のメンテナンスと交換時期
どんなに高性能な安全靴でも、使い続ければ劣化します。
特に踏み抜き防止板を内蔵した靴は、靴底の摩耗やインソールの沈み込みによって板の位置がずれることがあります。
以下のような状態が見られたら交換を検討しましょう。
・靴底の溝がすり減って滑りやすい
・中敷がへたって硬さを感じる
・靴底が割れている、剥がれている
・インソールが浮いて位置が安定しない
安全靴は“消耗品”です。
現場の環境や使用頻度によりますが、半年〜1年を目安に点検・買い替えを意識すると安心です。
現場で実感する踏み抜き防止の効果
耐踏抜き仕様の安全靴を履いた人の多くは、「足元の安心感がまるで違う」と口を揃えます。
釘を踏んでも“グッ”と抵抗感があって止まる。
その安心が作業中の集中力や姿勢の安定につながり、結果的に事故防止にもつながるのです。
さらに最近では、デザイン性にも優れたモデルが増えています。
スポーツブランド系の安全靴も、軽量性・屈曲性・踏み抜き防止を兼ね備えたハイブリッド仕様が登場し、快適性と安全性を両立できる時代になりました。
釘の踏み抜きを防止する安全靴で、足元の安心を手に入れよう
釘や鋭利物を踏み抜く事故は、一度起きると大きなケガにつながります。
そのリスクを最小限にするためには、「耐踏抜き性のある安全靴」を選ぶことが第一歩。
JISやJSAAの「Pマーク付き」を目安に、作業内容・環境・履き心地のバランスを考えて選びましょう。
加えて、定期的な点検と交換を忘れずに行うことで、常に最高の防護性能を維持できます。
足元の安全は、作業全体の安心に直結します。
釘の踏み抜きを防止する安全靴で、今日も安全に、快適に働きましょう。


