「その靴、ずいぶん履き込んでるね!」
もし日本でこう言われたら、多くの人は「そろそろ買い替え時かな……」と少し恥ずかしく思うかもしれません。でも、一歩海外へ出ると、その価値観はガラリと変わります。
ニューヨークのストリートやロンドンの路地裏、パリのカフェ。そこでは、ピカピカの新品よりも、あえてボロボロの、あるいは歴史を感じさせる「古いスニーカー」を誇らしげに履いている人々に出会います。
なぜ彼らは、あえて「古さ」を纏うのでしょうか?
そこには、単なる節約や物持ちの良さだけでは説明できない、深い文化的背景と「かっこよさ」の定義が隠されています。今回は、海外で古いスニーカーを履くことの真の意味と、その背後にある熱狂的なカルチャーを深掘りしていきましょう。
「新品=正解」ではない、海外のストリート事情
海外のファッションシーン、特にストリートカルチャーにおいて、卸したての真っ白なスニーカーは時に「気恥ずかしいもの」と捉えられることがあります。
英語には「Try-hard(頑張りすぎ、必死すぎる)」という言葉がありますが、完璧に手入れされた新品の靴は、時に「ファッションに必死すぎて余裕がない」というネガティブな印象を与えてしまうことがあるのです。
一方で、適度に汚れ、形が足に馴染んだスニーカーは、その人のライフスタイルや歩んできた時間を象徴します。これを彼らは「Effortless Cool(計算されていない格好良さ)」と呼びます。
特に、ラグジュアリーな服にボロボロのConverse オールスターを合わせるようなスタイルは、自分のアイデンティティがブランド品に負けていないことを示す、究極の「崩し」のテクニックとして愛されているのです。
ヴィンテージとアーカイブが持つ「物語」の価値
海外で古いスニーカーが支持される最大の理由は、そこに宿る「ストーリー」にあります。現代のスニーカーブームは、単なる靴の売買を超えて、もはやアートや骨董品に近い領域に達しています。
- ヴィンテージ(Vintage)の重み80年代や90年代に製造されたオリジナルモデルは、現行品とは素材の質感やシルエットが微妙に異なります。加水分解のリスクを抱えながらも、当時の空気感を纏った一足を履くことは、スニーカーの歴史への深い敬意(リスペクト)を表明することに他なりません。
- アーカイブ(Archive)としての所有特定のデザイナーが手掛けた初期のモデルや、社会現象を巻き起こしたコラボレーションモデルは「アーカイブ」と呼ばれます。これらを履くことは、自分がファッションの文脈を理解している「インサイダー」であることを周囲に知らしめる記号なのです。
単に古いものを履いているのではなく、「あえてこれを選んでいる」という知識とこだわりが、海外では知的なステータスとして機能しています。
音楽とスポーツが育んだ「反逆の美学」
スニーカーカルチャーの根底には、常に音楽やスポーツといったサブカルチャーの影があります。
1980年代、ニューヨークのヒップホップシーンでは、adidas スーパースターの紐を抜いて履くスタイルが流行しました。これは刑務所でのスタイルを模したものであり、社会に対する反抗のメッセージが込められていました。
また、90年代のグランジロックの旗手たちが履き潰したVANSやコンバースは、商業主義へのアンチテーゼでした。「ボロボロになっても自分を貫く」という精神性が、靴のダメージそのものに宿っていると考えられたのです。
このように、海外においてスニーカーの汚れや古さは、自分がどのようなカルチャーに根ざし、どのような価値観を支持しているかを示す「無言の自己紹介」となっているのです。
ラグジュアリーブランドが「汚れ」を売る時代
この「古いほうがかっこいい」という価値観は、いまやハイブランドの世界をも席巻しています。
例えば、イタリアのブランドであるGolden Gooseは、新品の状態から職人が手作業で汚し加工を施すことで知られています。一見すると使い古された靴に見えますが、実際には数万円から十万円以上する高級品です。
また、Balenciagaが発表した極端にダメージ加工を施したシリーズも世界中で大きな話題となりました。
なぜ、高いお金を払ってまで「古い見た目」を買うのか?
それは、現代において「完璧すぎるもの」よりも「不完全なもの」「人間味を感じさせるもの」に、より高い贅沢(ラグジュアリー)を見出す層が増えているからに他なりません。
サステナビリティと「長く履くこと」への転換
近年、世界的に叫ばれている「サステナビリティ(持続可能性)」の観点からも、古いスニーカーの意味合いは変化しています。
かつては「新しいものを次々と買うこと」が富の象徴でしたが、現在は「良いものを手入れしながら長く使い続けること」が、より洗練されたライフスタイルであるとされるようになりました。
海外の都市部では、古いスニーカーのソールを張り替えたり、クリーニングを施してリバイバルさせるスニーカー専用のリペアショップが人気を集めています。お気に入りのNike エアフォース1を5年、10年と履き続けることは、環境への配慮と、物に対する深い愛情を体現するアクションとなっているのです。
海外で「古いスニーカー」を履く意味とは?カルチャーやファッション背景のまとめ
いかがでしたでしょうか。
海外で「古いスニーカー」を履くことは、単に古い靴を使い回しているのではなく、そこにある歴史、音楽、精神性、そして持続可能性といった多層的なメッセージを纏うことを意味しています。
- 計算されていない「こなれ感」の演出
- 歴史やアーカイブに対する知識の表明
- 特定のサブカルチャーへの帰属意識
- 大量消費に対するカウンターとしての愛着
もし、あなたの下駄箱に少し汚れた、けれど思い入れのある一足があるのなら、安易に捨ててしまうのはもったいないかもしれません。その汚れや傷こそが、あなただけの物語を語る最高のスパイスになるからです。
次にスニーカーを履くときは、ぜひ「自分だけのヴィンテージ」を育てるような気持ちで、その一歩を踏み出してみてください。
あなたが次に手に入れたい、あるいは一生モノとして育てていきたいスニーカーはどれですか?その選択が、あなたの新しい個性を形作るはずです。


