アコースティックギターの世界には、語り継がれる「伝説」がいくつかあります。その筆頭が、1930年代に製作されたマーティン、通称「プリウォー(戦前)マーティン」です。ヴィンテージ市場では家が買えるほどの価格で取引されるこのサウンドを、現代の技術で、しかも新品の状態で再現しようと挑み続けているルシアーがいます。
それが、ジム・メリル氏が手がけるメリル ギターです。
「本物のヴィンテージの鳴りを知る人が、最後に行き着くギター」とまで称されるメリル。なぜこれほどまでに世界中のコレクターやプレイヤーを虜にするのか。その圧倒的なこだわりと、他のハイエンドギターとは一線を画すサウンドの秘密について、じっくりと紐解いていきましょう。
ヴィンテージを超越する「ジム・メリル」という伝説
メリル・ギターを生み出すジム・メリル氏は、もともと凄腕のヴィンテージ・リペアマンとしてその名を馳せていました。
数多くの1930年代製マーティンを解体し、内部構造を調べ、失われた「鳴りのロジック」を研究し尽くした彼が出した答えはシンプルでした。「当時の材料を使い、当時の工法で、当時と同じ情熱を込めて作る」ということです。
しかし、口で言うのは簡単ですが、これを実行できるルシアーは世界でも数えるほどしかいません。メリル氏は、単なるコピーモデルを作るのではなく、ヴィンテージが持つ「枯れたニュアンス」と「爆発的なレスポンス」を、現代の新品ギターに宿らせることに成功したのです。
アコースティックギターを愛する人にとって、メリルのヘッドロゴは、単なるブランド名以上の重みを持っています。それは、妥協なき職人魂の証でもあるからです。
腹に響く「重低音」と乾いた「ウッディ・トーン」
メリル・ギターを一度でも弾いたことがある人は、まずその「音圧」に驚かされます。
一般的な新品のギターは、どこか音が若く、角が立っているもの。しかし、メリルはケースから出した瞬間から、何十年も弾き込まれたような「ドライな響き」を放ちます。
- 圧倒的な低音の太さドレッドノート・スタイルのモデルであれば、弦を弾いた瞬間に空気が震え、弾き手の胸板を直撃するようなパンチのある低音を体感できます。これは、厳選されたアディロンダック・スプルースと、計算し尽くされたブレーシングの削り込みが生み出す魔法です。
- 濁りのない分離感どれほど大きな音で鳴らしても、一音一音の輪郭がぼやけることはありません。複雑なテンションコードを弾いても、それぞれの弦が独立して主張しつつ、全体として美しいハーモニーを奏でます。
- バンジョー・キラーの異名ブルーグラスのアンサンブルにおいて、大音量のバンジョーに音が消されないギターを「バンジョー・キラー」と呼びますが、メリルはその代表格。ホール全体に響き渡るプロジェクション(遠達性)は、他の追随を許しません。
妥協を排したスペックと「ニカワ」へのこだわり
メリル・ギターがこれほどまでにヴィンテージに近い音を奏でる理由は、そのスペック表を見れば一目瞭然です。
まず、接着剤には現代のタイトボンドではなく、伝統的な動物性接着剤である「ニカワ(Hide Glue)」を全面的に使用しています。ニカワは乾燥するとガラスのように硬くなるため、木材同士を一体化させ、振動の伝達ロスを最小限に抑えることができます。非常に手間のかかる作業ですが、メリルにとっては譲れないポイントなのです。
塗装に関しても、極限まで薄く仕上げられたニトロセルロース・ラッカーが採用されています。木の呼吸を妨げず、弾き込むほどに塗装が木に馴染み、サウンドがさらに深まっていく経年変化を楽しむことができます。
また、ハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)などの希少木材のストックも極めて質が高く、木目の美しさだけでなく、音響特性を最優先して選定されています。ジム・メリル氏の厳しい目で見極められた材料だけが、一つの楽器へと昇華されるのです。
主要モデル:D-18、D-28、そしてOM
メリルのラインナップは、基本的に1930年代のマーティン黄金期をモデルにしています。
- C-18(D-18スタイル)マホガニー特有の軽やかさと、メリル流のパワーが融合した傑作。乾いたパーカッシブなサウンドが特徴で、ブルーグラスのフラットピッキングにはこれ以上ない選択肢となります。
- C-28 / C-28 BRAZILIAN(D-28スタイル)最高級のローズウッド(またはハカランダ)を使用した、メリルのフラッグシップ。地を這うような低音と、きらびやかな高音のコントラストは、まさにピアノのようなレンジの広さを誇ります。
- OMシリーズオーケストラモデルらしい繊細なタッチへの反応速度を持ちつつ、ボディサイズを感じさせない音量。フィンガースタイルの方でも、メリル特有の「芯の太さ」を存分に味わうことができます。
どのモデルを選んだとしても、そこに宿るのは「メリル・トーン」と呼ばれる唯一無二の個性です。
入手困難ゆえの「出会い」の重要性
これほどまでに素晴らしいハンドメイドギターですが、唯一の欠点があります。それは、あまりにも生産本数が少ないことです。
ジム・メリル氏が一人で、あるいはごく少数のスタッフと共に製作しているため、年間に入荷する本数は日本全国で見てもごくわずか。楽器店の店頭に並んだとしても、コアなファンがすぐに押さえてしまうため、中古市場でも「幻のギター」に近い扱いを受けています。
もし、あなたが楽器店でメリル ギターを見かけることがあれば、それは運命だと言っても過言ではありません。価格は決して安くはありませんが、ヴィンテージのプリウォー・マーティンが数百万、数千万円することを考えれば、同等のサウンドクオリティを誇るメリルは、ある意味で「究極のコストパフォーマンス」を持っているとも言えるでしょう。
一生モノのパートナーとして選ぶ価値
ギターを選ぶ基準は人それぞれです。ルックス、弾きやすさ、ブランドの知名度。しかし、もしあなたが「音」という一点において、一切の妥協をしたくないと考えているなら、メリルは必ずその期待に応えてくれます。
弾き込めば弾き込むほど、木材が目覚め、さらに鳴りが良くなっていく。そんな一生をかけて育てていく価値のある楽器が、ここにはあります。
ヴィンテージギターが持つ「枯れた魅力」と、新品ギターが持つ「力強い生命力」。その両方を兼ね備えた唯一無二の存在、それがジム・メリルの作品なのです。
まとめ:メリル ギターの魅力とは?プリウォーマーティンを凌駕する至高のサウンドと特徴を解説
ここまで、メリル・ギターがなぜこれほどまでに高く評価されているのか、その理由を探ってきました。
徹底的なヴィンテージ研究に基づく設計、ニカワ接着や極薄ラッカー塗装といった伝統的工法の継承、そして何よりもジム・メリル氏の卓越した耳と腕が生み出す「爆発的な鳴り」。
「メリル ギターの魅力とは?プリウォーマーティンを凌駕する至高のサウンドと特徴を解説」というテーマでお届けしましたが、その真髄はやはり、実際に音を浴びてみないことには分かりません。
もしチャンスがあれば、ぜひ一度高級アコースティックギターが並ぶショップへ足を運び、メリルの弦を弾いてみてください。その瞬間、アコースティックギターに対するあなたの価値観が、ガラリと変わってしまうかもしれません。
一生モノの一本を探しているあなたへ。メリル・ギターという「現代の伝説」を、ぜひその手で確かめてみてください。


