ドラマ『陸王』をきっかけに、「足袋型ランニングシューズ」という言葉を初めて耳にした人も多いのではないでしょうか。老舗の足袋屋がランニングシューズを開発するという斬新な設定は、多くのランナーやモノづくりファンの心を掴みました。実はこの「陸王」には、現実世界に実在するブランドや技術が数多く関係しています。この記事では、そのモデルとなったシューズや開発背景、そして足袋型シューズが持つ魅力を分かりやすく解説していきます。
『陸王』とは？足袋屋が挑んだランニングシューズ開発の物語
『陸王』は、池井戸潤さん原作の小説をドラマ化した作品で、2017年にTBS系列で放送されました。物語の舞台は、埼玉県行田市の老舗足袋メーカー「こはぜ屋」。経営難に陥る中、伝統の足袋技術を応用して“ランニング用足袋シューズ”を開発しようと奮闘する姿が描かれています。
テーマは「挑戦」「伝統」「技術革新」。
老舗が新しい市場に挑む姿を通して、日本のモノづくりの精神と、ランニングシューズ開発のリアルな舞台裏が伝わってきます。
作中に登場するシューズ「陸王」は、裸足に近い感覚で地面を捉えられる設計。足袋ならではの構造を活かし、走る人の“足本来の力”を引き出すことを目指していました。
モデルとなった実在ブランド：きねや足袋「MUTEKI（無敵）」
ドラマの「陸王」には、実在の足袋メーカー「きねや足袋」が深く関係しています。
彼らが実際に製造・販売している「MUTEKI（無敵）」というシューズが、ドラマのモデルとしてたびたび話題になりました。
「MUTEKI（無敵）」は、伝統的な足袋構造に現代的なソールを組み合わせたランニング足袋。クッション材を極力省き、素足に近い感覚を重視しています。履いて走ると、自然と足裏全体で着地するミッドフット走法になり、地面との一体感を感じやすいのが特徴です。
実際、『陸王』の原作者・池井戸潤さんが小説執筆時に、きねや足袋を取材したという記録も残っています。つまり「こはぜ屋」のモデルは、現実の企業に実在しているのです。
「MUTEKI（無敵）」を試したランナーからは、「最初は筋肉痛になったけれど、徐々に走りが変わった」「足指が使えるようになって安定感が増した」といった声もあります。裸足感覚の走りを体験できる、まさに“陸王的”な一足といえるでしょう。
劇中のシューズ製作を手がけたのはミズノ
ドラマの撮影で使用された「陸王」シューズを実際に製作したのは、国内大手スポーツメーカーのミズノです。劇中の“アトランティス社”という架空のブランドのシューズも、ミズノが手がけました。
ミズノは、実際に役者が走れるように本格的な足袋型ランニングシューズを開発。アッパーには軽量で通気性の高い素材を使用し、ソールには「シルクレイ」と呼ばれる架空の新素材をイメージしたデザインを採用したといわれています。撮影用に製作されたとはいえ、細部までリアルに作られており、限定で一般販売もされたほどです。
この取り組みからも分かるように、『陸王』は単なるドラマではなく、スポーツメーカーの技術や開発精神を映し出した“リアルなランニング物語”でもあるのです。
アシックスとの共通点：足袋から始まった日本のランニング史
『陸王』の世界観と驚くほど共通しているのが、アシックスの創業物語です。
アシックス（旧・鬼塚商会）は、戦後間もない時期に「マラソン足袋」を開発し、ここから日本のランニングシューズ産業を築き上げていきました。
つまり、『陸王』の“足袋からシューズへ”という挑戦は、日本のスポーツシューズ史そのものでもあるのです。
足袋文化をルーツに持つ日本ならではの発想が、現代のハイテクランニングシューズへと進化していった──その原点をドラマが再現しているともいえます。
アシックスの「FlyteFoam」などの軽量素材技術も、こうした歴史の延長線上にあります。過去から未来へ、伝統と革新の物語が『陸王』を通じて再び注目されたのは象徴的な出来事です。
足袋型ランニングシューズの構造と走りの特徴
では、足袋型ランニングシューズとは具体的にどんな特徴があるのでしょうか。
- つま先が分かれている構造
親指とその他の指が独立して動くため、地面をつかむ力が高まります。足指をしっかり使うことで、バランス感覚や安定性が向上します。 - 薄底で軽量
クッションを最小限にすることで、足裏の感覚が鋭くなり、自然と“正しいフォーム”を意識できます。地面との一体感があり、走るリズムを掴みやすいのも特徴です。 - ミッドフット走法を促す
かかとではなく足裏の中央で着地する走法が自然に身につきます。膝や腰への衝撃を減らす効果が期待できるといわれています。
ただし、従来の厚底シューズに慣れている人が急に履き替えると、ふくらはぎや足裏に負担がかかる場合があります。初めて試す際は、短距離から慣らすのがおすすめです。
「陸王」的シューズを履くことで得られる感覚
実際に足袋型シューズを履いたランナーの多くが口を揃えるのが、「地面を感じる感覚が新鮮」という点です。
クッションで守られた厚底シューズと違い、路面の硬さや傾斜を足の裏で直接感じられます。これにより、自然と姿勢が整い、足裏の筋肉が活性化するという声もあります。
また、足指を動かすことで血流が良くなり、足の疲れが軽減されたという感想も見られます。単に走るための道具というより、「自分の体と向き合うためのシューズ」という印象を持つ人も多いようです。
『陸王』が多くの視聴者に感動を与えたのは、この“自分の足の力を信じる”というメッセージに共感したからかもしれません。
現在購入できる「陸王」関連シューズ
『陸王』の世界観を体感したい人は、以下のような実在モデルをチェックしてみるといいでしょう。
- きねや足袋「MUTEKI（無敵）」シリーズ
足袋の伝統を活かした本格的ランニング足袋。初心者向けから上級者用までラインナップがあります。 - 丸五「hitoe」
トレーニング向けの足袋型シューズ。街歩きやウォーキング用途にも人気があります。 - ミズノ製「陸王」劇中モデル（限定生産）
一般販売は終了していますが、コレクターアイテムとして今でも注目されています。
これらのシューズはいずれも、走り方を見直したいランナーや、地面との一体感を求める人に向いています。
ただし、スポーツ用具として使用する際は無理をせず、自分の脚力やフォームに合わせて選ぶことが大切です。
まとめ：ランニングシューズ陸王が教えてくれたもの
ドラマ『陸王』が描いたのは、単なるシューズ開発の物語ではありません。
そこに込められていたのは、“伝統を活かしながらも挑戦を恐れない姿勢”です。
ランニングシューズの進化は、厚底・反発素材・ハイテク構造と目まぐるしく変化していますが、『陸王』のように「足本来の力を信じる」思想も、今なお多くのランナーに響いています。
足袋型ランニングシューズは、初心者にも上級者にも新しい発見を与えてくれる存在。
走るたびに、自分の足が地面と対話しているような感覚を味わえるはずです。
伝統と革新が融合した“陸王スピリット”を感じながら、自分のスタイルに合った一足を見つけてみてください。
