スニーカー好きの間で密かに注目を集めているのが、オニツカタイガー ツナヒキ（TSUNAHIKI）。一見シンプルなデザインながら、他にはない存在感を放つモデルです。名前の通り“綱引き”というスポーツがルーツになっており、その背景を知るとこの靴の魅力がより深く理解できます。ここでは、ツナヒキの誕生の由来からデザインの特徴、そして現代に復刻された意図まで、じっくり掘り下げていきます。
綱引きから生まれた「TSUNAHIKI」というシューズ
ツナヒキの誕生は1982年。実は、当時のオニツカタイガー（現在のアシックス）が綱引き競技用に開発した“競技専用シューズ”がこのモデルの始まりでした。
1980年代初頭、日本では全国綱引選手権などが開催され、競技人口が増加。そこで「踏ん張る力を最大限に発揮できる靴を作ろう」と企画されたのが、初代「TSUNAHIKI 82」だったのです。
名前の“ツナヒキ”は、そのまま「綱引き」を意味します。ブランドらしい真面目さと遊び心が共存したネーミングであり、オニツカタイガーがいかに幅広い競技靴開発に挑んでいたかを物語っています。バスケットボール、ランニング、レスリングといった主流スポーツだけでなく、綱引きというニッチな分野にも情熱を注いだブランドの姿勢がこの一足に凝縮されています。
綱引き競技専用として生まれた機能美
ツナヒキの最大の特徴は、何と言ってもその機能性にあります。
綱引きは全身を使うスポーツですが、特に「地面をつかむ力」「横方向への踏ん張り」が重要です。そのため、ツナヒキは通常のスニーカーとは異なる構造を採用しています。
- 巻き上げラバーソール
ソールのゴムが側面までせり上がっているのが特徴。綱引き時に横方向の力が加わってもグリップを失わないよう設計されており、安定感を高めています。 - 幅広で低重心なフォルム
足裏全体で地面をとらえやすいよう、ソールはややフラットで広め。重心が下がることで、踏ん張りやすくなります。 - 頑丈なアッパーと金属アイレット
綱を引く際の強いテンションにも耐えられるよう、靴ひもを通す穴には金属リングを採用。これにより耐久性が向上し、長時間の使用にも耐えられる仕様となっています。 - 履き口の補強パイピング
足首まわりを補強し、脱ぎ履きの多い競技シーンでも形崩れを防ぐ設計。実用的な“道具としての美しさ”が宿っています。
このように、ツナヒキはデザインのためのデザインではなく、明確な機能目的から導かれた形状を持っています。結果的にその無骨な見た目が、現代では逆にファッション的な魅力として評価されるようになりました。
2018年の復刻 ― 機能靴からライフスタイルスニーカーへ
時を経て2018年、オニツカタイガーはこの伝説的モデルをライフスタイルスニーカーとして再リリースしました。
当時のフォルムを忠実に再現しながらも、現代の街履きにふさわしい履き心地と素材感にアップデートされています。
- デザインは当時のまま
ソールの巻き上げ構造、金属リングの靴ひも孔、パイピング処理など、オリジナルの特徴をしっかり踏襲。 - 履き心地は現代仕様に改善
クッション性の高い中敷きを採用し、長時間の歩行にも対応。オリジナルの“踏ん張る靴”が、“歩きやすい靴”へと進化しました。 - カラー展開の幅広さ
定番のホワイト×ブルーやブラック×ホワイトに加え、ブランドアイコンカラーのオレンジ×ホワイトもラインナップ。クラシックとモダンが調和した仕上がりです。 - 価格設定も良心的
復刻時の価格は約1万円前後。デザイン性とストーリー性を考えると、コストパフォーマンスの高いモデルといえるでしょう。
オニツカタイガーが持つアーカイブデザインの再評価という流れの中で、ツナヒキは“スポーツの原点をファッションに昇華した一足”として再登場したのです。
他の定番スニーカーと一線を画す存在感
ツナヒキが注目を集める理由は、他のスニーカーにはない独自性にあります。
ランニングシューズやコート系スニーカーが主流の中で、“綱引き用”をベースにしたモデルは極めて珍しい。まさに一点突破の個性です。
この個性が、いまのファッションに新しい視点を与えています。
例えば、ストリートやミリタリー、ワークスタイルとの相性が抜群。ソールの巻き上げデザインが重厚感を生み、コーディネートのバランスを引き締めてくれます。
また、シンプルな服装に合わせても“足元だけで語れる”存在感を発揮します。
オニツカタイガーの人気モデル「MEXICO 66」や「GSM」が軽快で洗練された印象なのに対し、ツナヒキはあえて“無骨で土臭い”魅力を持つスニーカー。だからこそ、差別化を求める人にとって理想的な選択肢となっています。
履く前に知っておきたい注意点
ツナヒキは個性的な靴ですが、いくつか留意点もあります。
- 構造が特殊なため、フィット感はやや独特。幅広設計なので細身の足の人はハーフサイズ下げるとちょうど良い場合があります。
- 厚めのソールではないため、長距離のランニングには不向き。タウンユースを中心に楽しむのがおすすめです。
- デザインのクセが強いため、ファッションとのバランスを取る意識も必要。ボリュームのあるパンツやワイドシルエットと組み合わせると映えます。
この“扱いにくさ”もまたツナヒキの魅力の一つ。自分らしく履きこなすことで、そのユニークさが際立ちます。
ツナヒキが象徴するオニツカタイガーの哲学
ツナヒキを通して見えてくるのは、オニツカタイガーの「多様性」と「職人精神」です。
創業以来、ブランドは常に“用途のための靴づくり”を追求してきました。
綱引きというマイナー競技にも専用靴を作るという姿勢は、どんなスポーツにも真摯に向き合うブランド哲学の証です。
そして現代、オニツカタイガーはそれを「文化」として再解釈し、日常生活に取り入れています。
ツナヒキは単なる復刻ではなく、ブランドのDNAを継承しながら新しい価値を提示するモデル。過去の名作を“いま履ける形”で蘇らせた象徴的な一足なのです。
まとめ：オニツカタイガー ツナヒキの由来と魅力を再確認
オニツカタイガー ツナヒキは、1982年に綱引き競技専用として生まれ、2018年にライフスタイルスニーカーとして復刻された特別なモデルです。
“綱を引くための靴”という実直なコンセプトに、現代的な快適性とデザインを融合。
履くだけでストーリーを感じられる、他にはない存在感を放っています。
普段履きで個性を出したい人、ブランドの歴史や背景を重視する人にとって、ツナヒキは理想的な選択です。
定番とは異なるアプローチで、自分の足元に“語れる一足”を加えてみてはいかがでしょうか。
