スニーカーブランド「オニツカタイガー」と聞いて、まず頭に浮かぶのはあの特徴的なマーク――サイドに走る2本のラインと、それを交差するように重なるもう2本のストライプではないでしょうか。いわゆる「オニツカタイガーストライプ」と呼ばれるこのデザインは、ただの装飾ではなく、ブランドの歴史そのものを象徴するアイコンです。この記事では、そのマークに込められた意味や誕生の背景、そして現在に至るまでの変遷をたどりながら、なぜこのデザインが世界中の人々に愛され続けているのかを解説します。
戦後の日本から始まったオニツカタイガーの物語
オニツカタイガーの歴史は、1949年、兵庫県神戸市で鬼塚喜八郎氏が「鬼塚商会」を設立したところから始まります。戦後の混乱期、「スポーツを通じて若者を健全に育てたい」という想いを掲げ、最初に開発したのはバスケットボールシューズでした。当時の日本ではまだスポーツシューズの専門メーカーが少なく、鬼塚氏の挑戦はまさにゼロからの出発だったのです。
やがてこのブランドは「Onitsuka Tiger」という名前で知られるようになります。「鬼塚（Onitsuka）」という創業者の名前と、「虎（Tiger）」という力強さと俊敏さを象徴する動物の名を組み合わせたもの。そこには“強く、しなやかに走り抜ける”というブランドの理想が込められていました。つまり、名前の時点ですでに「スピード」「俊敏性」「日本発の強さ」というブランドのDNAが宿っていたのです。
オニツカタイガーのマークが誕生したのは1966年
現在のオニツカタイガーのマーク、つまりあのストライプデザインが登場したのは1966年。1968年のメキシコオリンピックを見据えて、ブランドが新しいデザインを求めて社内外からアイデアを公募したことがきっかけでした。約200点の候補の中から選ばれたのが、今も続く「オニツカタイガーストライプ」。以後、オニツカタイガーの象徴として世界中に広まります。
初めてこのマークが採用されたのは、1966年に登場した「LIMBER」というモデル。その後、オリンピックの舞台でも選手たちの足元を飾り、一目で「オニツカの靴」と分かる存在になりました。この「識別性の高さ」こそ、ブランドロゴが生まれた大きな理由のひとつです。
ストライプが象徴する“動”のデザイン
オニツカタイガーのストライプは、単なる装飾ではありません。その形状には明確な意味が込められています。4本のラインが交差する構成は、「スピード」「俊敏性」「躍動感」を表現。まるで虎が地面を蹴り出して走る姿のように、動的なエネルギーを感じさせます。
さらに、このストライプには「流線形」という特徴があります。左右非対称で、直線ではなくわずかにカーブしたライン構成になっており、見る角度によって印象が変わるデザインです。これにより、履いた人が歩いたり走ったりしたときに「動きのあるロゴ」として視覚的な印象を強めています。つまり、止まっていても“動いているように見える”デザイン。これこそが、1960年代に誕生したにもかかわらず、今もまったく古びない理由でしょう。
視認性と機能美を兼ね備えたデザイン哲学
ストライプ誕生の背景には、スポーツ現場での「一目でわかる識別性」を高めたいという目的もありました。当時、国際大会でのユニフォームやシューズはどれも似たような色味で、遠くから見分けがつきにくかったのです。そこで「オニツカタイガーの靴は一瞬でわかるように」と考案されたのが、このストライプでした。
それは単なるブランドアピールではなく、選手の士気を高める意味も持っていました。自分の履いている靴がチームの誇りを象徴しているという意識が、パフォーマンスにもつながる――そんな想いがこのデザインに込められています。実際に1960年代後半から70年代初頭にかけて、オニツカの靴は世界中のトップアスリートに愛用されました。
アシックス誕生後も受け継がれた「虎のDNA」
1977年、オニツカ株式会社はGTOやJELENKと合併し、「ASICS（アシックス）」が誕生します。以降、アシックスブランドは高機能なスポーツシューズに注力していく一方、オニツカタイガーの名はしばらく表舞台から姿を消しました。
しかし2002年、アシックスは再び「オニツカタイガー」を独立ブランドとして復活させます。コンセプトは“ヘリテージとモダンの融合”。つまり、1960〜70年代のオリジナルデザインをベースにしつつ、現代のファッションやライフスタイルに合う形で再構築したのです。このときも、ブランドの象徴として最初に掲げられたのが、やはりあのストライプでした。半世紀以上前に生まれたデザインが、まったく手を加えずに今も通用している――それこそがオニツカタイガーの普遍的な魅力を物語っています。
ロゴマークに込められた「日本の美意識」
オニツカタイガーのマークは、海外のデザイン誌などでもしばしば「日本的ミニマリズムの象徴」として紹介されます。複雑な装飾を削ぎ落とし、必要最小限のラインだけでスピード感や力強さを表現する。これは、日本の工芸や建築にも通じる「用の美（機能が形を決める）」の発想です。
また、虎というモチーフ自体も、日本と深く関わりのある動物。古来より勇気・守護・成功の象徴とされ、家紋や掛け軸などにも頻繁に登場します。つまり、オニツカタイガーのマークには「日本的な強さと美意識」が一体化しているのです。
ストライプがファッションアイコンになった理由
2000年代以降、オニツカタイガーのスニーカーは世界中のストリートカルチャーやファッションシーンで人気を集めています。その理由は、単にレトロでおしゃれだからではありません。ストライプが持つ「ブランドの物語性」と「文化的背景」が、他のスニーカーにはない深みを感じさせるからです。
例えば「MEXICO 66」は、1966年に登場したオリジナルモデルをベースに復刻した一足。映画『キル・ビル』でユマ・サーマンが着用したことでも有名になりました。彼女が履いていた黄色×黒の配色は、まさに虎を思わせるカラーリング。このインパクトが、世界中で“オニツカタイガー＝スタイルの象徴”という認識を広めるきっかけになりました。
現代のロゴが伝えるメッセージ：「Discover the Difference」
現在のオニツカタイガーが掲げるブランドスローガンは「Discover the Difference（違いを見つけろ）」。この言葉には、量産的なスニーカー文化とは異なる“個性とこだわり”を大切にする姿勢が表れています。そしてそれは、ロゴマークの存在意義にも重なります。
どの時代にも流されず、他にはないストライプを守り続けることで、「自分らしさを貫く」というメッセージを発しているのです。
オニツカタイガーのマークは、ただの企業ロゴではありません。それは、ブランドの理念・歴史・デザイン哲学のすべてを凝縮した“シンボル”です。履く人それぞれが、自分の歩みとともにこのストライプを刻む。だからこそ、世界中で世代を超えて愛され続けているのです。
まとめ：オニツカタイガーのマークが語るもの
オニツカタイガーのマークに込められた意味を一言で表すなら、それは「伝統と進化の融合」です。
1949年の創業から続く「スポーツを通じて人を豊かにする」という理念、1966年に誕生したストライプデザインの機能美、そして現代ファッションとの融合。このすべてが一本の線でつながっています。
世界中に数多くのスニーカーブランドが存在する中で、オニツカタイガーのマークほど“日本らしさ”を感じさせるロゴは他にありません。その意味を知れば、あなたが次に履くスニーカーの見え方も、きっと少し変わるはずです。
オニツカタイガーのマークに込められた意味とは？ブランドの歴史とロゴデザインの魅力を解説（まとめ）
オニツカタイガーのマークは、単なる装飾ではなく、ブランドの魂を象徴する存在です。
虎のような強さと俊敏さ、そして日本の美学を兼ね備えたそのストライプは、半世紀以上にわたり時代を超えて輝き続けています。これからもオニツカタイガーは、そのマークとともに、伝統と革新を融合させたスタイルを世界に発信していくでしょう。
