スニーカーを選ぶとき、「あれ？ オニツカタイガーってアディダスに似てるかも」と感じたことはありませんか？
ストライプのようなデザイン、クラシックでスポーティな雰囲気。どこか共通する空気感がありますよね。
でも実際のところ、この2つのブランドに関係はあるのでしょうか？ 今回は、そんな疑問をじっくり掘り下げていきます。
オニツカタイガーの起源と歩み
オニツカタイガーは1949年、日本・神戸で誕生しました。創業者は鬼塚喜八郎氏。
戦後間もない時代に「スポーツを通じて若者の健全な心身を育てたい」という想いからスタートしたブランドです。
最初に手がけたのはバスケットボールシューズ。吸盤のようなソールを持つ革新的なシューズを開発し、グリップ力の高さで注目されました。その後は陸上、マラソン、バレーボールなど幅広い競技向けシューズを展開し、スポーツ界に欠かせない存在へと成長します。
1966年には、ブランドの象徴となる「Tiger Stripes（タイガーストライプ）」を初めて採用したモデル「MEXICO 66」が登場。流れるようなラインが交差するこのデザインは、オニツカタイガーのアイコンとして現在も続いています。
1977年、オニツカ株式会社は他社と合併し、現在のASICSが誕生。オニツカタイガーという名前はいったん表舞台から姿を消します。
しかし2002年、ファッションブランドとして再び復活。過去のヘリテージモデルを現代風にアレンジし、「日本発のクラシック・スニーカー」として世界的に注目される存在になりました。
アディダスの誕生と進化
一方のアディダスは、ドイツ発祥のブランドです。1920年代にダスラー兄弟が靴製造を始めたのが起点で、1949年、弟のアドルフ・ダスラーが「adidas」として会社を設立しました。
兄のルドルフ・ダスラーは別ブランド「PUMA」を立ち上げたことで、世界的に有名な“兄弟ブランド”対決が生まれます。
アディダスは1936年のベルリン五輪でジェシー・オーウェンス選手が着用したスパイクで世界的な名声を得ました。
その後もサッカーやランニング、バスケットボールなど多彩な競技で実績を重ね、1970年代には日常使いのスニーカーとしても人気を拡大。
そしてアディダスといえば、「三本線（Three Stripes）」のデザイン。
このシンプルなラインは、もともとシューズの補強を目的に施されたものでしたが、やがてブランドの象徴となり、世界中の人がひと目で“adidas”とわかるシグネチャーになりました。
オニツカタイガーとアディダスが「似ている」と言われる理由
両ブランドの関係を語るうえで、多くの人が気になるのは「なぜ似ているように見えるのか」という点。
実は、これはいくつかの要素が重なった“印象の錯覚”のようなものなのです。
まず大きな要因が「ストライプ」。
アディダスの三本線、オニツカタイガーのタイガーストライプ。どちらもラインを基調にしたデザインで、遠目には似た雰囲気を感じさせます。
ただし、アディダスは3本の直線的なラインが平行に走るのに対し、オニツカタイガーは交差する2本の曲線を組み合わせた構造。形も意味も異なります。
次に、両ブランドがたどった進化の軌跡。
どちらも「スポーツシューズブランド」としてスタートし、時代の流れに合わせて“ファッションブランド”へと進化しました。
つまり「スポーツのDNAを持つおしゃれなスニーカー」という共通した文脈があり、自然と同じカテゴリに並べられやすいのです。
さらに、クラシックでレトロな印象を打ち出している点も共通しています。
現代的なハイテクスニーカーとは一線を画し、どこか懐かしさを感じるデザイン。白地にラインを走らせた王道スタイルは、オニツカタイガーのMEXICO 66も、アディダスのスタンスミスやスーパースターも通じるところがあります。
見た目の共通点、ブランドの進化の方向性、レトロ感――これらが重なって、「似ている」と感じられるのです。
実際には関係がない？ それぞれの独立した歴史
ここでハッキリさせておきたいのは、オニツカタイガーとアディダスに「直接的な関係」は一切ないということ。
資本関係も提携もなく、開発のルーツも異なります。単純に、似た時代に似た方向で成長した“別々のブランド”なのです。
オニツカタイガーは日本の戦後復興を背景に誕生し、日本人の体格や文化に合った靴づくりを続けてきました。
一方アディダスは、ヨーロッパのスポーツ文化の中で進化し、世界大会やサッカー文化と強く結びついています。
起源・地域・思想が違う以上、同じストライプでも込められた意味は全く別物。
たとえるなら、「似たモチーフを使った全然違うアート作品」といったところでしょう。
世界での立ち位置とブランド戦略の違い
オニツカタイガーは今や“日本のデザインとクラフトマンシップを発信するグローバルブランド”として認知されています。
イタリア・ミラノにデザイン拠点を置き、世界各国でファッションブランドとして展開。スポーツではなく、日常やアートと融合した新しい価値を打ち出しています。
一方アディダスは、依然として「スポーツ×ストリート×カルチャー」の三軸を主軸に、世界のトップブランドとして君臨しています。
スタンスミスやスーパースターなどのクラシックモデルから、YEEZYなどの先鋭的コラボまで幅広く展開し、常に時代の流れをリード。
両者の違いを一言でまとめるなら、アディダスは「世界的スポーツカルチャーの象徴」、オニツカタイガーは「日本的美意識を持つファッションブランド」。
目指す方向は重ならず、それぞれの道で確固たる立ち位置を築いているのです。
それでも人々が比べたくなる理由
それでもなお、「オニツカタイガーとアディダスって似てるよね」という声は消えません。
それは、スニーカーというアイテム自体が文化や世代を超えて愛され、どの国でも共通言語になっているからです。
たとえば白いスニーカーにラインをあしらうというデザインは、時代を問わず支持されてきました。
スポーツにもファッションにもマッチし、履きやすく、どんなコーデにも馴染む。
その「普遍的な美しさ」を両ブランドが体現しているからこそ、人々は自然と比較してしまうのです。
また、どちらも“原点回帰”をテーマに掲げており、過去の名作を再解釈して復刻・再販しています。
たとえばオニツカタイガーのMEXICO 66やGSM、アディダスのスタンスミスやキャンパスなどは、どれも時代を超えて愛され続ける定番。
クラシックを現代にアップデートする姿勢も、共通点として挙げられます。
デザインの裏にある哲学の違い
オニツカタイガーのデザインは、日本的な「繊細さ」「調和」「控えめな美しさ」を感じさせます。
タイガーストライプの重なりや色使いには、どこか職人の手仕事のような温かみがあります。
アディダスは、よりグローバルで直線的。合理性とスポーツ科学を背景に、明快なロゴや機能美でブランドを表現します。
同じ“ライン”をモチーフにしていても、そこに流れる文化の違いが明確です。
たとえるなら、オニツカタイガーは「和のモダンアート」、アディダスは「ヨーロッパの工業デザイン」。
どちらも美しく、そしてどちらも違う方向からスニーカー文化を支えています。
オニツカタイガーとアディダス、どちらを選ぶ？
結局のところ、どちらが優れているという話ではありません。
アディダスは世界的なスポーツブランドとしての信頼と普遍性を持ち、オニツカタイガーは日本発の独自性と上品なデザインで存在感を放っています。
自分が何を重視するかによって選び方は変わるでしょう。
クラシックでありながら都会的な雰囲気を求めるならオニツカタイガー。
スポーツの伝統やカルチャーに惹かれるならアディダス。
どちらも“ストライプ”の向こうに、それぞれの哲学と歴史が息づいています。
表面上は似て見えても、その奥にあるストーリーを知ると、きっと見え方が変わるはずです。
オニツカタイガーとアディダスの関係を改めて考える
最後にもう一度まとめると、オニツカタイガーとアディダスは似ているようでまったく別の存在です。
共通するのは、スポーツブランドとして生まれ、時代とともにファッションへと進化したという流れ。
しかし、ルーツ・国・デザイン思想のいずれも異なります。
見た目のラインの共通点は、世界のスニーカーカルチャーが生んだ偶然の一致。
それでも両者が比較され、語られるのは、スニーカーという文化がそれだけ人々の暮らしに根付いている証でもあります。
もし次に街でオニツカタイガーやアディダスのスニーカーを見かけたら、
「似ている」というより、「それぞれの歴史が重なって見える」と感じてみてください。
きっと、これまでよりずっと深くブランドを楽しめるはずです。
