短距離スプリントにおける「速さ」を科学的に追求してきたアシックス。その最新作として登場したのが「アシックス メタスピード SP」だ。これまで長距離用の厚底シューズが注目を浴びてきたが、ついに短距離専用の厚底スパイクが本格的に登場した。
果たしてこのモデルは、従来のスパイクとどう違うのか。走りの感覚やフィット感、そして実際に使った選手の声までをもとに、その実力をじっくり掘り下げていこう。
メタスピードSPとは?アシックスが挑む“スプリントの厚底革命”
アシックス メタスピード SPは、100mや200mといった短距離スプリントに特化したモデルだ。アシックスが長年のランニング研究で培ってきた技術を凝縮し、「スプリントでも厚底+カーボンプレートは武器になる」という新しい発想で開発された。
シリーズ名の「METASPEED」は、すでにマラソン界で高評価を得ている「METASPEED SKY」「METASPEED EDGE」などと同じライン。
これらが長距離走者の“ストライド型”と“ピッチ型”に合わせて最適化されているのに対し、SP(Sprint)は爆発的な加速を求める短距離ランナーのために設計された。
特筆すべきは、厚底構造+フルレングスカーボンプレート という組み合わせ。これまで短距離スパイクでは地面を“感じる”ために薄底が主流だったが、アシックスはあえて真逆のアプローチを取った。これにより、スタートからトップスピードまでの推進力とエネルギーリターンを最大化している。
FF BLAST TURBOとカーボンプレートが生む爆発的な推進力
アシックス メタスピード SPのソールには、アシックスの最上位フォーム「FF BLAST TURBO」が採用されている。この素材は、軽量でありながら高い反発性を持ち、地面からの力を効率よく跳ね返す特性を持つ。
着地の瞬間に圧縮され、すぐに復元する弾性により、まるでトランポリンのように次の一歩を押し出してくれるのだ。
さらに、ソール内部にはフルレングスのカーボンプレートが組み込まれている。これがソール全体の剛性を高め、蹴り出し時に地面をしっかり押し込む感覚をサポート。
結果として、接地から離地までのエネルギーロスを抑え、短距離スプリント特有の“瞬発力”を引き出す。
アシックスが狙ったのは、単なる「厚底スパイク」ではなく、地面反力を最大限に活かせる“跳ね返るスパイク”。
スタート直後の爆発力と、トップスピード維持の安定感を両立させた点が、アシックス メタスピード SP最大の特徴といえる。
軽量でしなやか、足に吸いつくアッパー構造
アシックス メタスピード SPは、ソールだけでなくアッパー構造にも最新技術が詰め込まれている。
採用されているのは「MOTION WRAPアッパー」。これは軽量性と通気性を両立させた新素材で、足の動きに合わせて伸縮するフィット感が魅力だ。
さらに中足部の裏材には起毛素材を使い、部分ごとに通気孔のサイズを変えてホールド性を調整。
これにより、爆発的な加速時にも足がぶれにくく、安定したフォームを保ちやすい。
一方で、足入れ感はややタイト。特に足幅が広いランナーには「やや窮屈」と感じるケースもあるため、フィット感重視で試し履きをおすすめしたい。
ただし、ピタッと吸い付くような感覚を好む選手にとっては理想的な一足だ。
走り出した瞬間にわかる“厚底の反発力”
実際に使用したランナーのレビューでは、共通して「反発力の強さ」と「スタートダッシュの軽さ」を挙げている。
スタート直後から足が前に出やすく、蹴り出した力がしっかり地面に伝わるという声が多い。
中でも印象的なのは、「中盤以降のスピード維持が楽」という評価だ。
従来の薄底スパイクでは、後半に入ると接地時の衝撃吸収が少なく、脚への負担が増えやすかった。
アシックス メタスピード SPはソールに厚みがあることで、着地の安定性を保ちながらもバネのような弾力を感じられる。
「厚底なのに暴れない」「高反発なのに安定している」という相反する要素を両立している点が、多くの選手に評価されているポイントだ。
従来スパイクとの違いと“使いこなし”の難易度
従来のスパイク(例:ソニックスプリントエリートやジェットスプリント)と比較すると、アシックス メタスピード SPは走行感がまったく異なる。
地面を“掴む”というより、“押し出す”“跳ね返る”ような感覚に近い。
ただし、こうした反発の強さを活かすには、ある程度の筋力と技術が必要だ。
単に履くだけでは速くならず、フォームの安定や踏み込みの強さが伴ってこそ、このスパイクは真価を発揮する。
特に前足部着地のランナー、もしくはスタートダッシュで前重心を維持できる選手には相性が良い。
逆にフラット接地やかかと寄りの走法の選手には、少し扱いが難しく感じられるかもしれない。
厚底スパイクのメリットと課題点
厚底スパイクの最大のメリットは、推進力とエネルギーリターンの高さにある。
地面からの反発を効率的に利用できるため、レース後半でもスピードを維持しやすい。
一方で、課題も存在する。
厚底+カーボンプレート構造は、慣れないうちは足首やふくらはぎへの負担を感じる選手も多い。
また、接地面がやや狭く設計されているため、安定性よりもスピード優先の設計といえる。
そのため、日常の練習ではなく、本番レース専用シューズとして使うのが理想だ。
トレーニングでは従来のフラットスパイクを使い、レースでアシックス メタスピード SPを投入することで、脚の負担をコントロールしつつ効果的に走力を引き出せる。
競合スパイクとの比較:ナイキ・アディダスとの違い
近年の短距離スパイク市場では、ナイキの「Air Zoom MaxFly」やアディダスの「Prime SP2」など、カーボン搭載モデルが続々と登場している。
これらはいずれも“強烈な反発”を特徴としており、スピードの伸びを狙った設計だ。
一方、アシックス メタスピード SPは「反発力」と「安定性」のバランスに優れている。
他社のスパイクが“跳ねすぎる”“コントロールしづらい”と感じる選手にとって、アシックスのSPはより自然な感覚で走れる選択肢となる。
つまり、極端なバネ感ではなく、地面との一体感を残しつつもスピードを引き出すスパイク。
「速さ」と「扱いやすさ」の中間を求めるランナーにフィットする設計思想といえる。
どんな選手に向いているか
アシックス メタスピード SPは、以下のようなタイプのランナーにおすすめできる。
- 100m~200mの短距離をメインに戦う選手
- 爆発的な加速力と中盤以降のスピード維持を両立したいランナー
- 筋力・フォーム・体幹が安定しており、反発をコントロールできる走者
- 前足部接地を基本とするランナー
逆に、足幅が広い選手や、安定性を重視する初級者にはやや扱いづらい部分もある。
その場合は、従来型スパイクの方がフィットしやすいだろう。
まとめ:アシックス メタスピード SPがもたらす新時代のスプリント体験
アシックス メタスピード SPは、短距離スプリント界における“厚底革命”の象徴といえる存在だ。
カーボンプレートと高反発ミッドソールが生み出す推進力は、これまでのスパイクとは一線を画す。
とはいえ、すべてのランナーに万能なわけではない。
このシューズは、**技術とパワーを持つランナーが最大限に引き出せる「勝負のための一足」**だ。
厚底の恩恵を活かせる走法を持つ選手にとって、間違いなく新たな武器になる。
スプリント界では、いまやスパイク選びも戦略の一部。
自分の走りに合わせた最適なギアを選ぶことで、さらなるスピードの可能性が広がっていく。
その最前線に立つのが、まさにこのアシックス メタスピード SPなのだ。


