短距離スプリントを極めたいランナーにとって、スパイク選びはタイムを左右する重要な要素。アシックス ジェット スプリント 3の最新モデル「ジェットスプリント3(JETSPRINT 3)」は、従来の前足着地型スパイクとは一線を画す“フラット接地型”設計を採用した意欲作です。ここでは、その構造、特徴、実際の使い心地、どんなスプリンターに向いているのかを詳しく紹介します。
JETSPRINT 3とは?アシックスが挑む新しい短距離スパイクの形
「ジェットスプリント3」は、アシックスが短距離走専用に開発した上級者向けスパイク。対応種目は100mから400m、さらにはハードル競技まで。最大の特徴は、従来の「フォアフット(前足着地)」ではなく、「フラット走法(中足部~足裏全体着地)」を想定して設計されている点です。
地面を足裏全体でしっかり捉える走法に特化しているため、安定感や推進力の伝達効率が高く、後半のスピード維持にも優れています。アシックスが長年培ってきたスプリントシューズのノウハウをベースに、新しい走法スタイルに合わせたモデルとして誕生しました。
FF BLASTとフラットプレート構造による反発力と安定性
ジェットスプリント3のミッドソールには、アシックスの高反発素材「FF BLAST」を採用。この素材は軽量でありながら反発力が強く、地面を蹴った際のエネルギーを素早く前方推進力へと変換します。足裏全体で地面を押すフラット走法との相性も抜群です。
さらに、ソール全体には「フラットプレート構造」を採用。従来の前足部中心プレートとは異なり、ソール全体が地面と均等に接地する設計で、接地の安定性と力の伝達を高めています。これにより、スタートダッシュからトップスピードまで、滑らかで効率的な走りが可能になります。
MOTION WRAPアッパーでブレを抑えるフィット感
スプリント中の足のズレを防ぐため、アッパーには「MOTION WRAP」構造が採用されています。これはアシックス独自のフィッティングテクノロジーで、軽量メッシュながら優れたホールド性を実現。激しい加速やコーナーリングでも足が靴の中でブレにくく、安定したキック動作をサポートします。
また、26.5cmで片足約181gという軽量設計も魅力。反発力を保ちながらも軽快な履き心地を両立しており、長時間の練習やレースでも疲れにくい仕上がりになっています。
フラット走法に特化した設計思想の背景
短距離スパイクといえば、前傾姿勢を作り、前足で弾くように走る“フォアフット走法”が主流でした。しかし、アシックスはあえてそこに一石を投じています。フラット走法は、足裏全体で地面を捉えることで安定性を高め、推進エネルギーを逃さず次の一歩へつなげるスタイル。
特に中盤から後半にかけてのスピード維持やフォームの安定性に優れ、ケガのリスクも軽減できるといわれています。アシックスはこの「安定 × 反発」の両立を追求し、フラット走法スプリンターのための設計を徹底的に磨き上げました。
実際の履き心地とユーザー評価
着用者のレビューでは、「地面をしっかり踏み込める」「足裏全体で反発を感じられる」「後半でもスピードが落ちにくい」といった声が多く見られます。FF BLASTとフラットプレートの組み合わせにより、接地の安定性が高く、滑らかに加速できる点が好評です。
また、MOTION WRAPによるフィット感の高さも評価が高く、「踵の浮きが少ない」「足の一体感がある」といった感想も。これにより、踏み込みから蹴り出しまでの動作がスムーズにつながる印象を与えています。
注意点と選び方のポイント
ただし、フォアフット型スプリンターにとってはやや感覚が異なる可能性があります。前足部で強く蹴るタイプの走法では、フラット設計の恩恵を十分に得られない場合も。特にスタート局面で前傾を強く作る選手は、従来型スパイクのほうが合うかもしれません。
また、ジェットスプリント3はアシックスの中でもややタイトなフィット感。標準幅(ワイズ:STANDARD)設定のため、甲高・幅広の足型の人は0.5cm上げて選ぶと良いでしょう。プレートが硬めに作られているため、筋力やフォームが安定していない初心者にはやや扱いが難しい点も押さえておきたいところです。
どんなスプリンターに向いているか
このモデルが特におすすめなのは、次のようなスプリンターです。
- フラット走法を採用、または練習中のランナー
- 地面を押す力と安定感を重視するタイプ
- 100m〜400m、ハードルなどの短距離種目に挑戦する選手
- フォーム改善や後半のスピード維持を課題にしている人
- オールウェザートラックでの練習・大会が多い競技者
つまり、単にスピードだけを追求するのではなく、「効率的に速く走る」「安定した走りを維持する」ことを目指す中~上級者向けのスパイクといえます。
他モデルとの違いと市場での位置づけ
現在のスプリントスパイク市場では、「フォアフット重視」と「フラット接地重視」という2つの方向性が共存しています。ナイキやアディダスの多くが前足着地を強調する中、アシックスはこのジェットスプリント3で異なるアプローチを選択。
その結果、従来の短距離スパイクでは得られなかった安定感と接地のしなやかさを実現しました。これは、走法や体格、筋力に合わせたスパイク選びが求められる現代のスプリンターにとって、非常に魅力的な選択肢です。
使用時の注意点とメンテナンス
ジェットスプリント3はオールウェザートラック専用モデルです。土トラックではピンが食い込みにくく、グリップ性能を十分に発揮できません。練習環境が土トラック中心の人は、練習用として別のスパイクを併用するのが望ましいでしょう。
使用後はソールに付着した汚れをブラシで落とし、風通しの良い場所で乾燥させるのが基本。FF BLAST素材は熱に弱いため、直射日光やドライヤーなどの高温乾燥は避けるようにします。定期的にスパイクピンをチェックし、摩耗が進んだら早めに交換することで長く高性能を維持できます。
アシックス ジェット スプリント 3がもたらす新しいスプリント体験
アシックス ジェット スプリント 3は、単なるスパイクの新作ではなく、「走り方そのものを変える」可能性を秘めたモデルです。フラット走法という新しいスタイルに挑戦するスプリンターにとって、地面との一体感や推進力の質を再定義する存在といえるでしょう。
もちろん、誰にでも完璧に合うわけではありません。しかし、自分の走法を理解し、それに最適な一足を選ぶことができれば、スプリントの世界が一段と広がります。これからの短距離競技において、JETSPRINT 3は新しい基準のひとつとなるでしょう。


