アシックスという名前を聞けば、多くの人が「ランニングシューズのブランド」として思い浮かべるでしょう。しかし近年のアシックスは、単なるスポーツ用品メーカーにとどまらず、ブランド価値や経営体制の刷新を進める“次世代型グローバル企業”として注目を集めています。
今回は、アシックスの役員構成や主要メンバーの経歴、そして彼らが描く未来戦略について、わかりやすく紹介していきます。
アシックスの経営体制と役員構成
アシックスは、1949年の創業以来、神戸を拠点に「健全な身体に健全な精神があれかし」という理念を掲げてきました。現在は世界150か国以上で事業を展開し、売上の約8割を海外が占めるグローバル企業へと成長しています。
その成長を支えるのが、バランスの取れた取締役会構成と、明確なガバナンス体制です。
アシックスの取締役会は、「監査等委員でない取締役9名以内」「監査等委員5名以内」という定数で構成され、さらに過半数を独立社外取締役が占める仕組みになっています。これは経営判断の公正性を高め、外部からの視点を積極的に取り入れるための体制です。
指名・報酬委員会にも複数の社外取締役が参加し、役員人事や報酬の決定が透明に行われています。
こうした体制によって、アシックスは「健全な経営」と「柔軟な意思決定」を両立させています。
廣田康人 会長CEO ― 技術力を軸にしたブランド経営
アシックスグループを率いる代表取締役会長 CEO は、廣田康人（ひろた・やすひと）氏です。
早稲田大学を卒業後、三菱商事で長年にわたり国内外の業務に従事。その後アシックスに顧問として加わり、2018年に代表取締役社長COO、2022年にCEO兼COO、そして2024年に会長CEOへと就任しました。
廣田氏の経営スタイルは「技術力をブランド価値に変える」ことにあります。かつてはシェア拡大を優先し、値引き販売を行うこともありましたが、現在は「高付加価値・適正価格」を重視。製品の品質とブランド力を軸にした経営へとシフトしています。
彼が強調するのは、アシックスが持つ研究開発力です。スポーツシューズの機能性、クッション性、安定性といった要素を磨き上げることで、競技用のみならずライフスタイル分野にも応用できるという考えです。
事実、オニツカタイガーやアシックススポーツスタイルなど、ファッション要素を融合させたブランドラインは国内外で高い人気を集めています。
廣田氏は社内コミュニケーションにも積極的で、社員研修や店舗視察に自ら参加する姿勢を見せています。「現場の感覚を経営に反映する」ことを重視している点も、アシックスらしい実直な企業文化を象徴しています。
富永満之 社長COO ― デジタル変革をリードする頭脳
現在のアシックスにおいて、デジタル戦略の中核を担っているのが代表取締役社長 COO の富永満之（とみなが・みつゆき）氏です。
アンダーセン・コンサルティング（現アクセンチュア）でキャリアをスタートし、IBMやSAPジャパンなどIT業界で豊富な経験を積みました。2018年にアシックスに入社し、デジタル統括部長を経て、2020年にCDO／CIO、2024年に社長COOに就任しています。
富永氏が主導するのは、アシックス全体のDX（デジタルトランスフォーメーション）です。製品開発、販売、マーケティング、物流といったあらゆるプロセスをデジタルで統合し、より効率的で顧客体験に直結する仕組みを構築しています。
また、「Running Ecosystem」や「OneASICS」といったデジタルプラットフォームを推進。ランナーやスポーツ愛好者がシューズ購入だけでなく、アプリ連携やコミュニティ活動を通じてアシックスブランドを体験できる仕組みを整えています。
単なる「モノづくり企業」から、「顧客体験をデザインする企業」へと進化する過程の中心にいるのが富永氏なのです。
社外取締役と監査体制 ― ガバナンス強化の柱
アシックスのもう一つの特徴は、ガバナンスの透明性を高めるための社外取締役の積極登用です。
取締役会では、経営トップに加え、法務・会計・マーケティングなど多様な分野で活躍する専門家が社外取締役として参画しています。女性取締役や海外経験者も多く、性別・国籍・専門性のバランスが取れた構成になっています。
2024年には新たに須藤実和氏、江藤真理子氏らが監査等委員として加わり、監督機能がさらに強化されました。
指名・報酬委員会の委員長も社外取締役が務め、経営陣の選任や報酬決定プロセスの公正性を担保しています。
このような仕組みは、投資家や取引先からの信頼を高めるだけでなく、長期的な企業価値の向上にもつながっています。
経営戦略の核心 ― 「技術」「ブランド」「デジタル」の融合
アシックスの経営陣が描く未来像を一言で表すなら、「技術 × ブランド × デジタルの融合」です。
廣田CEOのリーダーシップのもと、製品の高品質・高機能を基盤としつつ、富永COOによるデジタル化で顧客体験を革新。そこにブランド価値の向上を掛け合わせることで、持続的な成長モデルを構築しています。
特に注目されるのが、2025年に発表された大規模な組織再編。
グローバル生産体制を再構築し、物流や販売計画、在庫管理を統合的に最適化する新しい仕組みを導入しました。これにより、サプライチェーン全体の効率化と柔軟な供給体制が可能になります。
さらにデジタル＆マーケティング部門も再整備。グローバルブランドとしての発信力を強化し、国内外の消費者とつながる仕組みを再設計しています。これらの施策は、「ASICSを“走る”ブランドから、“生きる”ブランドへ」という変化を象徴しています。
変革の背景 ― スポーツ市場の成熟と新たな競争軸
アシックスがここまで経営体制を変化させている背景には、スポーツ市場の構造的な変化があります。
ランニングシューズ市場はすでに成熟期を迎え、競合ブランドが乱立。単純な機能性だけでは差別化が難しくなっています。
さらに、消費者の関心は「履き心地」や「性能」だけでなく、「デザイン性」「ブランドストーリー」「サステナビリティ」にも広がっています。
こうした環境の中で、アシックスは“高付加価値ブランド”への転換を進めているのです。
たとえばオニツカタイガーでは、スポーツ由来のデザインとファッション性を融合し、海外セレブにも愛用されるブランドに成長。アスリート向けと日常向けの両軸でブランド価値を高めています。
また、製造から販売までを一体化させることで、コスト構造の健全化と利益率の向上も実現。2025年には営業利益率が20％を超えるなど、経営基盤も大きく改善しています。
デジタル×ブランド戦略の行方
アシックスの今後を占ううえで、富永COOが進めるデジタル戦略は欠かせません。
「OneASICS」プラットフォームを中心に、オンラインストア、アプリ、リアル店舗が連携。ユーザーの購入履歴や走行データを活用して、一人ひとりに最適な製品やトレーニング情報を提供する仕組みを構築しています。
これにより、アシックスは単なる「製品販売」から「体験提供」へと進化。
データを活用したサービス拡充により、ランナーやスポーツ愛好家との長期的な関係を築くことを目指しています。
今後はウェルネスやヘルスケア領域への展開も見据え、ブランドの枠を超えた新しい価値提供を模索していくと考えられます。
経営陣が描くアシックスの未来
廣田CEOと富永COOのコンビが率いるアシックスは、「伝統」と「革新」を両立させた経営を進めています。
創業以来培ったスポーツ科学とクラフトマンシップを基盤に、デジタル化とブランド価値の強化を推進。
「技術」「デザイン」「体験」の三位一体で世界市場に挑む姿勢が明確です。
同時に、社外取締役を中心としたガバナンスの強化や、多様なバックグラウンドを持つ人材登用によって、社会的責任と企業の持続性も重視しています。
これはESG経営やサステナビリティの観点からも重要な取り組みといえるでしょう。
アシックス役員の経歴と構成が示す未来戦略の本質
最後にもう一度整理すると、アシックスの役員構成には明確な意図があります。
廣田CEOによる「ブランドと技術の融合」、富永COOによる「デジタルによる進化」、そして社外取締役による「ガバナンスの透明化」。
この三本柱が、今後のアシックスを支える中核戦略です。
スポーツ用品の枠を超え、「心身の健やかさをデザインするブランド」として進化し続けるアシックス。
その舵を取る経営陣の存在は、まさに次の時代のアシックスを象徴する存在といえるでしょう。
