「昔のアシックスのバッシュってもう覚えてる人、少ないんだろうな」
最近、そんなことをふと思ったんです。体育館の床をキュッキュッと鳴らしていたあの感触、タコの吸盤みたいなユニークなソール、そして何より国産ブランドとしての誇り。時代はナイキやアディダス全盛かもしれませんが、ちょっと待ってください。アシックスのバッシュには、日本のバスケットボール史そのものと言っても過言じゃない、熱い物語が詰まっているんです。
今日はちょっと懐かしい方向けに、あるいは「昔のバッシュってどんなだったの?」と気になる若いバスケッターのために、その歴史をひも解いていきましょう。
すべての始まりは体育館の床からの挑戦
話は1949年、神戸で鬼塚喜八郎が興した鬼塚株式会社、そう現在のアシックスの前身です。戦後の焼け野原から「スポーツで若者を元気にしたい」という熱い思いでスタートしたこの小さな会社が、最初に挑んだのがバスケットボールシューズでした。
当時の常識では、体育館のフローリングで激しいストップ&ゴーを繰り返すバッシュを作るのは至難の業。でも鬼塚は「一番難しいからこそ、ここで成功すれば何でもできる」と考えたそうです。
驚くのは彼の「現場主義」。完成した靴を当時のバスケ強豪校に直接持ち込み、選手たちの感触を聞きながら改良を重ねる。今で言うユーザーテストを半世紀以上前に、しかも高校生相手に本気でやってたんですから、その真摯さに頭が下がります。この開発スタイルが、その後のアシックスバッシュの魂になっていくんですよね。
夕飯のタコが名作バッシュを生んだ
さて、昔のアシックスバッシュを語る上で、これは絶対に外せない伝説があります。1951年に登場した「吸着盤型バスケットボールシューズ」です。
ある晩、鬼塚喜八郎が夕食に出てきたタコの酢の物をぼんやり眺めていたとき、突然ひらめいた。「この吸盤の仕組み、靴底に使えるんじゃないか?」って。
実際にソールに深い凹みをつけてみると、これがもうフロアにガッチリ食いつく。ストップしたい時にピタッと止まり、切り返しで抜群のグリップ力を発揮しました。ところが面白いことに、最初はグリップが強すぎて選手がつんのめって転んでしまうという予想外のハプニングも。そこで吸盤のくぼみを少し浅くする調整を加え、ようやく完成形に。
この「鬼塚式タイガーバスケットシューズ」を履いた高校チームが全国制覇を果たしたことで、品質の高さは一気に全国区に。夕飯のおかずから世界的スポーツブランドの技術が生まれるって、なんだか素敵じゃないですか?
伝説のファブレシリーズ、その履き心地を知っていますか
「ファブレ」この響きにピンと来たあなたは、かなりのバスケ通です。
1981年に登場したアシックス ファブレシリーズ、初代モデルの「ファブレジャパン-L」は日本のトップ選手の足形を徹底的に計測して生まれた、純国産のラスト(足型)を採用した渾身の一作でした。
特筆すべきはそのグリップ力とフィット感。当時のプレイヤーたちは口を揃えて「フロアに吸い付くような食いつき」と表現しました。1983年に登場した「ファブレ ポイントゲッター」は特に人気が高く、バスケ経験者のブログなどを読んでみると、「初めて履いた時の衝撃を30年以上経った今でも覚えている」といった声が多数見られます。
ちなみに当時の価格は革製のファブレで約5,000円、布製のバッシュが3,000円ほど。今の物価で考えるとすごく安く感じますが、高校生にとっては決して小さくない金額で、アルバイト代を握りしめてスポーツショップに買いに行った思い出を持つ方も多いでしょう。
残念ながらファブレシリーズは2017年に生産を終了しましたが、そのデザインの遺伝子はライフスタイルシューズアシックス GEL-PTGとして今も復刻販売されています。昔のファブレを知る世代が「これこれ、このフォルム!」と懐かしみ、若い世代には新鮮に映る。世代を超えて愛されるって、本当に名作の証ですよね。
壊れやすい布バッシュから革バッシュへ、あの頃の選択
昔のバスケットボールシューズ事情をちょっとだけ補足しましょう。
当時は布製のバッシュが主流で、軽くて履きやすい反面、ハードな練習ですぐに底が裂けてしまうのが大きな悩みでした。特に体育館で毎日のように練習する部活生にとって、シューズの寿命は切実な問題。そこで耐久性を求めて選ばれたのが、アシックスの革製バッシュだったんです。
「革は重いんじゃないの?」と思うかもしれませんが、履き込むほどに足に馴染み、包み込まれるようなホールド感が生まれます。最初は硬くても、練習を重ねるごとに自分だけの一足になっていく感覚。これって、今のハイテクシューズにはなかなか味わえない魅力かもしれません。
昔のバッシュが教えてくれること、そして今へ
アシックスの昔のバッシュを振り返ってみると、すべての根っこにあるのは「選手ファースト」の精神だとつくづく感じます。選手の声を聞いて改良する、日常生活のふとした瞬間からヒントを得る、そして決して手を抜かない。
その思想は現在の最新モデル、アシックス NOVA SURGEやアシックス SWIFT ACEにも脈々と受け継がれています。もちろん素材も技術も当時とは比べものにならないほど進化していますが、「より良いプレーを支えたい」という原点は何も変わっていません。
もし今、押入れの奥や実家の下駄箱に古いアシックスのバッシュが眠っているなら、ぜひ手に取ってみてください。それはただの古い靴じゃなく、日本のスポーツシューズ産業が世界に挑んだ歴史の生き証人ですから。



