アシックスのロゴといえば、あの青色の文字とスパイラルマークを思い浮かべる人が多いはずです。でも、実はこのロゴ、昔からずっと同じではありません。創業から現在までに何度かデザインが変わっており、その背景にはブランドの成長や時代の変化が深く関わっています。
この記事では、アシックスのロゴが「昔」と「今」でどう変わってきたのかを、歴代デザインの流れや意味とともに解説していきます。
アシックスロゴの始まりと由来 ― Onitsuka TigerからASICSへ
アシックスのルーツは、1949年に鬼塚喜八郎氏が設立した「オニツカ株式会社（Onitsuka Co., Ltd.）」にあります。戦後間もない時代、日本の若者にスポーツの力で希望を与えたいという想いから始まりました。
当初のブランド名は「Onitsuka Tiger」。この「タイガー」ロゴが、現在のアシックスロゴの前身にあたります。
そして1977年、オニツカ株式会社が他2社（GTO、Jelenk）と合併し、新会社「ASICS Corporation（アシックス株式会社）」が誕生。
このとき、新しい社名「ASICS」はラテン語の格言 Anima Sana In Corpore Sano（健全な身体に健全な精神を）から取られています。つまりアシックスの名前自体に、ブランド理念が込められているのです。
1977年の初代ロゴ ― 力強くシンプルな始まり
新しい会社の誕生と同時に、1977年には初代の「ASICS」ロゴが誕生しました。
このロゴはアメリカの有名デザイナー、ハーブ・ルバリン（Herb Lubalin）によるもので、太めのサンセリフ体（ゴシック体）を使ったシンプルな文字ロゴ。力強さと安定感を感じさせるデザインでした。
青色を基調としたこのロゴは、清潔感・信頼性・スポーティな印象を与えるもので、まさに「健全さ」というブランド理念を体現していました。
当時のアシックス製品にはこのロゴが刻まれ、シューズやウェアとともに日本国内だけでなく世界のスポーツシーンへと広がっていきます。
この時代のロゴは、今でも復刻モデル「ASICS Tiger（アシックスタイガー）」などで使われており、ブランドの原点を象徴するデザインとして愛されています。
1980年代後半 ― ロゴの洗練と国際展開の準備
1987年前後、アシックスは創立10周年を迎え、ロゴのデザインを細かく調整しました。
太めだった文字がやや細くなり、軽やかでスタイリッシュな印象に。この変更は「ブランドの信頼感はそのままに、より現代的に見せる」ためのリファイン（微修正）といえるものでした。
この時期、アシックスは国際市場への本格的な進出を進めており、ロゴにも「グローバルブランドとしての洗練さ」が求められ始めます。
当時の広告や製品パッケージには、よりスッキリとした文字ロゴが使用されるようになりました。
1990年代 ― “スパイラル”マークの登場とブランドの進化
1992年、アシックスのロゴに大きな転機が訪れます。
この年、ブランドを象徴する「スパイラルマーク（ASICS Spiral）」が初めて導入されました。
このマークは、「a」の文字をモチーフにした渦巻き状のデザインで、「スピード」「成長」「無限の可能性」「前進」といった動的なイメージを表しています。
単なる装飾ではなく、「スポーツの持つエネルギー」と「人間の進化」を象徴する意味が込められていました。
また、このスパイラルは、単独でもブランドを示すシンボルとして機能する点が画期的でした。
シューズの側面やウェアの胸元に配置しても一目でアシックスだと分かるようになり、ブランドの認知を一気に高めました。
このころから、アシックスは「競技用ブランド」から「ライフスタイルを支えるブランド」へと進化し始めます。
2000年代 ― モダンロゴへのリニューアルとグローバル統一
2003年以降、アシックスは再びロゴのデザインをアップデート。
そして2007年、現在も使用されている現行ロゴが正式に採用されました。
変更点は次の通りです。
- フォントの刷新：より現代的なイタリック体（右上がりの文字）に変更され、スピード感と先進性を強調。
- スパイラルの調整：以前よりもコンパクトで滑らかな形状にし、動きと洗練さを両立。
- 色合いの変更：深みのあるブルーを採用し、プロフェッショナルで落ち着いた印象に。
この時期のアシックスは、競技用シューズだけでなくファッション・ライフスタイル領域にも進出。
世界中のアスリートに愛用されるグローバルブランドへと成長する中で、ロゴもまた国際的な競争に耐えうる“普遍的なデザイン”へと進化しました。
現行ロゴは、単に見た目がスタイリッシュなだけでなく、ウェブサイトや広告などデジタル媒体での視認性にも配慮されています。
つまり、ブランド戦略・マーケティング・デザインの三要素を統合した結果のロゴなのです。
アシックスタイガーの復活と旧ロゴ再評価の流れ
2010年代、アシックスは再び「過去のロゴ」を活かす動きを見せます。
2015年にライフスタイルライン「ASICS Tiger（アシックスタイガー）」が復活し、1977年のオリジナルロゴを再び採用しました。
この復刻は、単なる懐古ではありません。
ストリートファッションやスニーカーブームの中で、1970〜80年代のデザインが再評価され、「クラシック＝価値」として受け入れられる時代になっていたのです。
アシックスはこれを巧みに活かし、「昔のロゴをあえて使うことで、伝統とモダンを融合する」ブランディングを展開しました。
現在でも、アシックスタイガーやオニツカタイガーの製品には、旧ロゴが使われており、ブランドの歴史的深みを感じさせる存在になっています。
ロゴの青色が変わらない理由 ― 色に込められたメッセージ
どの時代のアシックスロゴを見ても共通しているのが「青（ブルー）」を基調としている点です。
実はこの色には、ブランド理念に沿ったメッセージが込められています。
青は「信頼」「誠実」「清潔」「安心感」を表す色。
アシックスが掲げる「健全な身体と健全な精神」という理念と非常に親和性が高いのです。
また、スポーツブランドとしての「清涼感」「爽快感」「スピード感」にも通じるため、ブランドカラーとして定着しました。
現行ロゴの青はより濃い色味となり、落ち着きやプロフェッショナルな印象を与えています。
この色の深化も、ブランドの成熟を象徴しているといえるでしょう。
ロゴの変化に見るアシックスのブランド哲学
アシックスのロゴは、単なるデザイン変更の歴史ではありません。
その裏には、ブランドとしての哲学と時代への対応が常に存在していました。
- 1977年：ブランド誕生 ― 健全さと信頼を象徴
- 1987年：細字化 ― 国際的ブランドへの準備
- 1992年：スパイラル導入 ― 躍動と成長の象徴
- 2007年：現行ロゴ ― 洗練・スピード・グローバル統一
- 2015年以降：旧ロゴ復活 ― 原点回帰と伝統の再評価
こうして見てみると、アシックスのロゴは「理念を変えずに、時代に合わせて形を変える」進化の象徴だと言えます。
企業としての一貫性と柔軟性の両方を持ち合わせているのです。
アシックスのロゴは昔と今でどう変わった？その意味をもう一度考える
アシックスのロゴの変遷を振り返ると、「昔」と「今」で最も大きく変わったのはデザインのトーンですが、理念そのものは一貫しています。
健全な身体と精神、スポーツの楽しさ、成長と進化――この根底にある価値観は、ロゴがどれだけモダンになっても変わっていません。
昔のロゴには力強さと原点の熱意があり、今のロゴには洗練とグローバルな風格がある。
どちらもアシックスというブランドの一部であり、過去と未来をつなぐ「ブランドの物語」を語っています。
これからもアシックスのロゴは、時代とともに少しずつ姿を変えながら、世界中の人々のスポーツライフを支えていくはずです。
それは単なるデザインの変化ではなく、「健全な心と体」という永遠のテーマを表し続けるための進化なのです。
