アシックスのロゴを見たことがある人は多いでしょう。シューズのかかとやウェアの胸元に描かれた、あの独特の“a”をかたどったデザイン。けれど、その形にどんな意味が込められているのかを知っている人は、意外と少ないかもしれません。
今回は、アシックスのロゴに込められた想いと、これまでのデザインの変遷、そしてブランド理念との関係について深掘りしていきます。
アシックスの社名に隠された理念とは
アシックス(ASICS)という名前は、ラテン語の 「Anima Sana In Corpore Sano(アニマ・サナ・イン・コルポレ・サノ)」 から生まれました。意味は「健全な身体に健全な精神があれかし」。
創業者の鬼塚喜八郎氏は、戦後の荒廃した日本で「スポーツを通じて青少年の健全な成長を支えたい」と考え、この言葉に深く共感したといわれています。
つまり、アシックスという社名自体が「スポーツを通じて人々の心と身体を豊かにする」というブランドの原点を象徴しているのです。
この理念は、今でもアシックスグループ全体のフィロソフィーとして息づいており、製品開発やブランドメッセージの根幹に位置しています。
初代ロゴ誕生(1977年)──誠実さを感じさせる力強い書体
アシックスが誕生したのは1977年。前身企業であるオニツカ株式会社を含む3社が統合し、「株式会社アシックス」としてスタートを切りました。
このときに誕生したのが、初代のアシックスロゴです。
初代ロゴは、太めのサンセリフ体を用いたシンプルで堂々としたデザインでした。派手さはないものの、スポーツ用品メーカーとしての誠実さや信頼感を重視した印象。
スポーツを愛するすべての人に長く愛されることを意識した、真面目で堅実なデザインだったといえます。
1980年代後半──時代に合わせた洗練への一歩
1987年前後、アシックスはブランドイメージのリフレッシュを目的に、ロゴのマイナーチェンジを行いました。
太字だった書体をやや細くし、全体のバランスを整えることで、軽やかでモダンな印象へと変化。
スポーツブランドとして成長を続ける中で、「信頼」だけでなく「洗練」や「スピード感」といった要素も表現する狙いがあったと考えられます。
1980年代後半のスポーツシーンは、テクノロジーやファッション性の融合が進んだ時期でもあり、アシックスもその潮流に呼応するかたちでブランドを進化させていったのです。
1992年──“a”をモチーフにしたスパイラルロゴの登場
現在のロゴの原型となるデザインが登場したのは1992年。
アシックスの頭文字である “a” をモチーフに、渦を巻くような曲線で描かれたシンボルマークが誕生しました。
このスパイラルは、単なる装飾ではなく「無限のスピード」「スポーツの躍動感」「未来への拡がり」を象徴しています。
また、渦巻きの中心から外へと広がる形には、「スポーツを軸に社会や人々へエネルギーを伝えていく」という意味も込められているとされています。
つまり、ブランドの精神を視覚的に体現した、非常に象徴的なデザインなのです。
2007年──現在のロゴへ。グローバル化を意識した洗練のデザイン
2007年、アシックスは再びロゴを刷新。
“a” のスパイラルシンボルを継承しつつ、全体を斜体にして動きやスピード感を強調しました。
新しいロゴタイプはよりスマートで近未来的な印象となり、世界に通用するスポーツブランドとしての地位を示すデザインへと進化。
このタイミングで、アシックスは海外市場への本格展開を強化。
そのため、グローバルブランドとしての一貫性や視認性を意識したデザインへとシフトしたとも言われています。
ブルーを基調としたカラーリングも、誠実さと清潔感を印象づけるアシックスらしい選択でした。
ロゴに込められた「動き」と「精神」
アシックスのロゴデザインには、一貫して「動き」というテーマが流れています。
初代ロゴでは静かな力強さを、1992年以降のスパイラルマークでは、動的でエネルギッシュな躍動感を。
これらはすべて、「身体を動かすことで心を豊かにする」という企業理念の延長線上にあります。
渦を描くような“a”のラインは、走る人の軌跡、あるいは成長の螺旋をも想起させます。
一見シンプルに見えて、実はブランドの哲学を象徴する深いメッセージが込められているのです。
ブランド理念とロゴの共鳴──「健全な身体に健全な精神を」
アシックスの理念「健全な身体に健全な精神を」は、単なるスローガンではありません。
それは、製品の開発思想や広告メッセージ、そしてロゴデザインにまで浸透している、ブランドの魂そのものです。
特にスパイラルマークは、企業理念の「動きの中で心身が調和していく」という考えを視覚化した象徴。
この思想があるからこそ、アシックスは単なるスポーツメーカーにとどまらず、「ウェルビーイング」や「自己成長」といった現代的価値にも通じるブランドへと成長してきました。
ロゴの変遷が語る、アシックスの進化の物語
1977年の誕生から現在まで、アシックスのロゴは何度もデザインを変えてきました。
しかし、どの時代にも共通しているのは「理念を守りながら進化する姿勢」です。
太字から細字へ、そしてスパイラル“a”へ。形を変えても、そこに流れる思想はひとつ。
それは、「スポーツを通して人々の健やかな生活を支える」という普遍的な信念。
この一貫性が、アシックスを世界中で愛されるブランドへと育てた理由でもあります。
また、過去のロゴを復刻モデルやレトロシリーズで再び採用する姿勢も、歴史への敬意とブランドの誇りを示しています。
ロゴの変遷は、アシックスの成長そのものであり、時代を超えて受け継がれる精神の証なのです。
ロゴから見えるアシックスの未来
ロゴが象徴する「動き」「広がり」「進化」は、これからのアシックスの方向性を示しているようにも見えます。
スポーツテクノロジーの進化や、ライフスタイルへの拡張、環境への配慮など、新しい挑戦を続けるアシックス。
そのすべてに共通しているのは、「人の可能性を引き出す」という信念です。
今後、ロゴデザインが再び変わることがあったとしても、その根底に流れる理念は変わらないでしょう。
むしろ時代に合わせて新しい解釈を加えながら、ブランドとしてのアイデンティティをより深く表現していくはずです。
アシックスのロゴに込められた意味とは──まとめ
アシックスのロゴは、単なるデザインではなく、ブランドの哲学そのもの。
1977年の誕生以来、形を変えながらも「健全な身体に健全な精神を」という理念を表し続けてきました。
スパイラル状の“a”は、動き・スピード・発展を象徴し、人と社会をつなぐブランドの精神を映し出しています。
私たちが日常で目にするそのロゴには、長年にわたる挑戦と情熱、そして「スポーツで人を幸せにする」という信念が宿っているのです。
アシックスのロゴを見かけたとき、その背景にある想いを少しだけ思い出してみてください。
きっと、これまでとは違う視点でブランドの魅力を感じられるはずです。


