「アシックスのマークって、なんだか不思議な形をしているな」と感じたことはありませんか?
スポーツシューズやウェアで見かける、あの小文字の“a”をモチーフにしたスパイラル状のマーク。
実はこのロゴには、アシックスというブランドが大切にしてきた哲学や、創業以来の想いが深く込められています。
今回は、その“アシックスのマーク”に秘められた意味と、ロゴデザインの変遷、そしてブランド哲学について掘り下げていきます。
アシックスという名前に込められた理念
アシックスという社名は、ラテン語の格言「Anima Sana In Corpore Sano(アニマ・サナ・イン・コルポレ・サノ)」の頭文字を取ったもの。
日本語にすると「健全な身体に健全な精神が宿る」。この言葉は、古代ローマの詩人ユヴェナリスの一節に由来しています。
創業者・鬼塚喜八郎はこの言葉に感銘を受け、「スポーツを通じて人々の心と体の健康を支えたい」という思いを掲げ、アシックスを立ち上げました。
つまりブランドの根幹にあるのは“スポーツによる人間的成長”という理念。
その精神は、今日のアシックスにも息づいており、企業メッセージの中心には常に「心・体・地球の健全さ」が置かれています。
ロゴ誕生の背景 ― 1977年のブランド統合
現在のアシックスが誕生したのは1977年。
それまで日本国内で知られていた「オニツカタイガー」など3つの会社(オニツカ、GTO、ジェレンク)が統合され、新たな総合スポーツブランドとしてスタートしました。
この統合を機に、新しいブランドの顔となるロゴデザインが求められました。
当時、世界的なグラフィックデザイナーであるハーブ・ルバリンらが手掛けたロゴタイプが採用され、国際市場でも通用するモダンでシンプルなデザインに。
1970年代後半の時代背景を考えると、この選択は非常に先進的でした。
「日本発のスポーツブランドを、世界へ。」という強い意志を、ロゴそのものが体現していたのです。
初代ロゴ ― スポーツの躍動感を象徴するデザイン
1977年の初代アシックスロゴは、太めのサンセリフ体で構成されたシンプルなデザイン。
青を基調とした配色は、誠実さと信頼感をイメージしていました。
このロゴは、スポーツトラックの円周や円盤投げの回転をモチーフにしており、
「走る」「動く」「前進する」というスポーツの本質的なエネルギーを表現。
アシックスが大切にしている“動きの美しさ”を、ビジュアルとしてわかりやすく伝えていました。
創業当初のロゴはシンプルながらも強い躍動感を持ち、ブランドの理念を視覚的に表した象徴的な存在でした。
シンボルマーク“aスパイラル”の誕生
アシックスのロゴデザインが大きく変わったのは1990年代。
この時期、現在の象徴ともいえる“a”をモチーフにしたスパイラル状のシンボルマークが誕生します。
このマークには明確な意図があります。
「スポーツがもたらす無限の可能性」「スピード感」「広がり」「進化」――それらを一つの形で表現するためにデザインされたのです。
スパイラルは“成長を続ける動き”を象徴します。
アシックスが「スポーツを通じて人間と社会をより良くしていく」ブランドであるというメッセージを込めたシンボルでもあります。
また、小文字の“a”を採用した点も重要。
大文字ではなくあえて小文字にすることで、ブランド全体に“親しみやすさ”と“柔らかさ”を持たせています。
アスリートだけでなく、日常的にスポーツを楽しむすべての人に寄り添う姿勢が、ここに表れています。
ロゴが進化しても変わらない理念
その後もアシックスはロゴを少しずつブラッシュアップしてきました。
2000年代初期にはフォントがより洗練され、ブルーの色味も深くなり、全体的にモダンで国際的な印象に。
しかし、ロゴの根本的なデザイン構造や哲学は、創業当初からほとんど変わっていません。
この「変えないこと」こそが、アシックスのブランド力を高めてきた大きな要素です。
流行に流されず、常に自分たちの信念を中心に据える。
その姿勢が、ブランドへの信頼と安心感を育ててきました。
多くのスポーツブランドが大胆なロゴ変更を繰り返す中、アシックスは一貫して自らのアイデンティティを守り続けてきたのです。
ロゴとブランド哲学の関係性
アシックスのマークは単なる“シンボル”ではなく、ブランドの哲学そのものを体現する存在です。
- 心身の健全さ:
社名の由来にある「健全な身体に健全な精神を」。
スポーツを通じて心と体のバランスを整え、人生をより豊かにするという理念。 - 動きと成長の象徴:
スパイラルデザインは“前進”“変化”“成長”を意味します。
静止ではなく常に動き続ける姿勢を表しています。 - グローバル性と普遍性:
世界中の人々に理解されるシンプルで力強い造形。
言葉を超えて伝わる“健全さ”という価値をビジュアルで示しています。 - 親しみやすさと柔軟性:
小文字の“a”を使うことで、人との距離を近くし、日常にスポーツを取り入れるライフスタイルを表現。
このように、ロゴの形や色にはすべて意図があります。
アシックスのマークは、創業理念・ビジョン・ブランドメッセージを一つにまとめた象徴的な存在なのです。
ロゴが語る「アシックスの未来」
アシックスは今、スポーツブランドという枠を超え、ライフスタイル全体を提案する存在へと進化しています。
最新技術を活かしたランニングシューズや、持続可能な素材を使ったサステナブルウェアなど、
その活動は「健全な心身」から「健全な地球」へと広がりを見せています。
この方向性は、まさにロゴのスパイラルが象徴する“拡がりと成長”そのもの。
過去から現在、そして未来へと続くアシックスの物語を、あのマークが静かに語りかけているのです。
アシックスのマークが持つ普遍的な力
最後に、もう一度アシックスのマークに込められた意味を振り返ってみましょう。
それは、「スポーツを通じて人々の心と体を健全にする」という普遍的な理念。
動き続けるスパイラルは、私たち自身の成長や挑戦の象徴でもあります。
アシックスのマークを見かけたら、そこに宿る“哲学”を思い出してみてください。
ただのロゴではなく、70年以上にわたって人々の健康と希望を支えてきた、ブランドの信念そのものが刻まれているのです。
そしてこれからも、そのスパイラルは未来へ向かって動き続けます。
――アシックスのマークに込められた意味とは、まさに「健やかに生きること」そのものなのです。


